つぼいひろきの住友グループ探訪
住友重機械エンバイロメント
梅調味液バイオガス発電所

梅干しの生産量が日本一の和歌山県みなべ・田辺地域の長年の課題は、梅調味廃液の処理コストの増大だった。
解決に一役買ったのは、住友重機械エンバイロメントの高効率嫌気性排水処理システム「バイオインパクト」を利用した梅調味液バイオガス発電所である。

和歌山県・上富田町ののどかな風景の中に立つ梅調味液バイオガス発電所。
隣は医療機関でもあり、災害時の非常用電源としての機能も期待される。

バイオインパクト反応槽

「バイオインパクト反応槽」の内部は独自の機構により、高効率にガス、処理水、汚泥が分離される。

梅干しがエネルギーに?!そんなウメ~話が本当にあるんですか~? 梅干しがエネルギーに?!そんなウメ~話が本当にあるんですか~?

和歌山県の南紀白浜空港からクルマで約30分。上富田町にある「梅調味液バイオガス発電所」を訪ねた。遠くからも目立つ大きな円筒形のタンクが目印だ。和歌山県は、梅の産地として有名だが、梅干しなどの加工品の生産量は日本一だそうだ。中でもみなべ・田辺地域はわずか数十km四方に200軒を超える梅干し製造・加工会社が集まっているというから驚いた。同じ産業の事業所がこれだけ密集している。そのために、地域では長年梅調味廃液の処理方法で大きな共通の課題を抱えてきた。梅加工食品メーカーである中田食品の広報課長・小串慎一さんに話をうかがった。

「近ごろ梅干しは、昔ながらの塩だけで漬けたものより、減塩タイプやハチミツ、かつお節などで味をつけたものがトレンドです。これらは調味液に浸しながら塩分を抜いていく工程が加わるため、減塩すればするほど調味液の使用量が増えます。しかも、梅調味廃液は塩分濃度や糖度が非常に高く、さらにBOD濃度も中濃ソース並みで、魚がすめる水質にするためには約2万6000倍に希釈しなければなりません。この地域だけでは処理が間に合わず、県外の産業廃棄物処理業者にも委託していますが、その運送費も含めた処理コストが増えるばかりなんです」

そうした問題に頭を悩ませていたときに小串さんが目をつけたのが、地元の高等専門学校の先生が「梅調味廃液をエネルギーとして有効活用できるかもしれない」と発表した論文だったという。

「梅調味廃液を地域の中でエネルギーとして再利用できないかと上富田町とも相談しました。しかし、処理施設の建設に多額の費用がかかるため難しく、それならば当社がプラントを整備し、地元の産業廃棄物処理業者との共同事業として地域の同業者たちからも廃液を収集すれば、新事業として成立するのではと考えたのです。そこでプラント建設に向けての事前調査を委託したのが住友重機械エンバイロメントでした」

集中処理システム

梅調味廃液の処理コストの増大という地域課題を解決するために、住友重機械エンバイロメントさんにご相談してできたのが、このシステムです! 梅調味廃液の処理コストの増大という地域課題を解決するために、住友重機械エンバイロメントさんにご相談してできたのが、このシステムです!

住友重機械エンバイロメントは、下水処理場や工場排水の処理施設など、水処理設備や環境衛生施設、廃棄物処理施設などの企画設計・製造で60年余りの歴史を誇っている。同社が30年以上の実績を持つ高効率嫌気性排水処理システム「バイオインパクト」を採用することとし、ミニプラントで十分に検証した結果、梅調味廃液中の有機物をバイオガスに転換して、そのガスで発電し、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を利用して売るのが最善の策だと考えられた。

ここで改めて「嫌気性処理法」について、同プラントの設計に携わったエンジニアリング部の技師・齋藤隆介さんに教えてもらった。「生物処理には大きく分けて『嫌気性処理』と『好気性処理』の2つの方法があり、酸素を必要としない嫌気性微生物が有機物をメタンガスと二酸化炭素と水に分解する方法が『嫌気性処理』です。酸素を必要とする微生物によって有機物を炭酸ガスと水に分解する『好気性処理』と比べ、発生したメタンガスからエネルギーが得られるほか、曝気動力が不要で汚泥の生成も少なく、処理コストを大幅に削減できます」と齋藤さんは言う。梅調味廃液を浄化して川に流す環境負荷の低減と、梅調味廃液をバイオマス源として再利用し発電した電気を売ることでプラントの維持管理費の負担軽減という、2つの狙いが実現するわけだ。

梅調味液バイオガス発電所

特許も取りましたよ! 特許も取りましたよ!

実際に梅調味液バイオガス発電所を案内してもらった。梅調味廃液の入ったコンテナが積まれ、梅独特の酸っぱい香りが漂っている。それが「梅調味廃液槽」に流し込まれ、通常のプロセスでは「酸生成槽」に送られるわけだが、このプラントではその前に「AGリアクター」を経るようになっている。糖度が非常に高い梅調味廃液をアルコール分解するもので、今回このプラントのために何度もテストを重ねて独自に設計したものだ。特許も取得している。

次に「酸生成槽」で酢酸に変換されたものが、いよいよ最も大きなタンク「バイオインパクト反応槽」へ送られる。メタン菌が形成したグラニュール(粒状)汚泥が、有機物を98%バイオガスにするんだそうだ。脱硫塔で硫黄分を除いた後、ガス発電機に送られて発電を行う。一方、「バイオインパクト反応槽」の中で発生した処理水はほぼ浄化されているが、最後は好気性微生物による仕上げ処理を行い、COD(化学的酸素要求量)もSS(浮遊物質量)も、県や漁業協同組合が求めている基準の4分の1以下にする。発電機のラジエーターの冷却水が70℃まで上がったのを熱交換器で熱を取り出し、井戸水を希釈設備用の温水にするために使っているなんて、どこまでもムダのないシステムなんだなぁ。

1㎥コンテナに入った梅調味廃液 1㎥コンテナに入った梅調味廃液
1m3コンテナに入った梅調味廃液。中田食品だけでも1日に10m3の廃液が出るという。

小串さんは、このプラントの計画が決定した後、燃料となる梅調味廃液を利用せずに処理するのがもったいなくて、1日も早く完成させたいと思ったそうだ。このプラントがフル稼働すれば、1日に一般家庭400世帯分の5650kWhの発電量が見込めるという。南海トラフ地震による大きな被害が想定されている和歌山県で、万が一地震が発生した場合は、発電所が非常時用の電源としても活用できるだろうと話す。

国際的に脱炭素社会を目指した取り組みが進められている今、電力の「地産地消」を実現する1つの方法として、廃棄物を処理するだけでなくエネルギーに転換するという、“一石二鳥”なシステムはますます期待されるだろうなと思った。

※水の汚れを微生物が分解するときに使う酸素量のこと。この値が大きいほど汚染度が高いことを示す。

エネルギー源になる梅干し!?

廃液で発電できちゃうなんて梅干し自体にもすごいエネルギーがありそうですね! そうなんです!
世界で活躍するアスリートたちも梅干しを疲労回復に食べているんですよ!
さあみなさんも食べてください! くぅぅぅぅ~! なんか元気が出てきたぞ~!
梅干しパワーで熊野古道を歩ききりましょう! ボクも!?

編集スタッフの取材後記

中田食品本社工場へお邪魔すると、見学者用の通路にずらりと貼られていたのは、誰もが知るオリンピック選手たちの写真やサインです。同社では疲労回復の効果がある梅干しを、2004年のアテネ五輪から夏と冬のオリンピックで日本選手団に提供しており、カーリング選手たちの「もぐもぐタイム」でも食べていただいたそうです。

中田食品本社工場敷地内にある直営売店 中田食品本社工場敷地内にある直営売店

マンガルポ「住友グループ探訪」 ナンバー

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