泉屋博古館 前編

住友家寄贈の優品を収蔵・展示

泉屋博古館

泉屋博古館(せんおくはくこかん)

本館

所在地
京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
月曜日 (ただし、月曜日が祝日の場合開館、翌平日休館)年末年始、展示替え期間
泉屋博古館

分館

所在地
東京都港区六本木1-5-1
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
月曜日(ただし、月曜日が祝日の場合開館、翌平日休館)年末年始、展示替え期間
URL
http://www.sen-oku.or.jp/

住友家ゆかりの地に

泉屋博古館は、住友家が収集した美術品、工芸品を収蔵展示する美術館である。
本館が立地するのは、京都東山の麓にあたる左京区鹿ケ谷。穏やかな山容を間近にのぞむ景勝地として古くから知られ、明治以降は、数寄者(すきしゃ)が好んで別荘をかまえた地だ。明治・大正を生きた住友15代当主住友友純(春翠)も、かつてここに別荘を構えた。一方、分館はかつて住友会館があった場所。1990年代、住友連系各社が本社を東京へと移すなか、東京におけるメセナ活動を強化したいとのグループの意向と、六本木再開発構想で、付近一帯を上野の森につづく美術館街にしたいとの東京都の意向が合致し、泉ガーデン開発時にここに分館を建てることにしたものだ。
泉屋博古館が収蔵する作品の多くは、春翠によって収集されたものだ。古代中国の青銅器約600点をはじめ、中国・日本の書画約650点、茶道具約800点、能装束・能面が約250点、洋画約150点が、京都鹿ケ谷の本館と東京六本木の分館に収蔵展示されている。

京都本館の外観。直線的なフォルムが特徴的で、柱や梁には、木目調の装飾が施されている。
京都本館の外観。直線的なフォルムが特徴的で、柱や梁には、木目調の装飾が施されている。
都心とは思えない閑静な空間に立つ分館。近代の絵画や陶芸作品を企画展示。
都心とは思えない閑静な空間に立つ分館。近代の絵画や陶芸作品を企画展示。

世界屈指の青銅器コレクション

夔神鼓(きじんこ)
夔神鼓(きじんこ)
紀元前11世紀 商時代
高さ82.0cm
全体に3~5mmと非常に薄く鋳造され、全面に細かい文様が見られる。当時の正面の像は当時の鬼神の一つと考えられている。音楽大の協力のもと、再現試験を行ったところ、低く柔らかいティンパニのような音がした。類例としては湖北省で一点出土しているのみ。

多彩な収蔵品の中でも、特に青銅器は質量ともに世界有数のコレクションとして知られる。紀元前17世紀から紀元前3世紀の殷(商)、周時代にさかんに制作された青銅器は、彝器(いき。宗教的儀礼のための祭器)として利用されるとともに、器の所有者の地位や権威を象徴する政治的・社会的意味も持ち、青銅器文明が衰退した漢代以降も、中国の思想を象徴するものとして珍重された。複雑な器形と精緻な文様、器種のバリエーションなどから、世界各地で愛好されていたが、春翠が収集していた20世紀初頭においては、日本で青銅器を集めていたコレクターは、ほとんどいなかった。ちょうどその頃、義和団の乱の余波を受けて、それまで中国の文人らが所有していた質の高い青銅器が流通し日本に伝来した。春翠はそれらを積極的に収集。世界でも類例の少ない作品も揃え、傑出したコレクションを形成した。

広く世界に公開

西園寺公望の筆による「泉屋博古」の題字
西園寺公望の筆による「泉屋博古」の題字。現在の泉屋博古館にかかるものはレプリカで、本物は有芳園内の歴史展示館(もとの青銅器展示室)に掲げられている。

春翠の死後まもない昭和3年(1928年)、当時、住友家別邸であった有芳園内に、住友合資会社工作部建築課の技師長長谷部鋭吉の設計で青銅器の展示室を建築。内外からその希少な作品を見学するために研究者が訪れていたが、世界的にも貴重なコレクションだけに、組織で管理し、広く公開することを願い、それを受ける形で昭和35年(1960年)財団法人泉屋博古館が設立。有芳園内の土地建物と、青銅器518点を譲り受けた。
その10年後の昭和45年(1970年)、大阪万博を機に、内外の賓客をもてなす迎賓施設を兼ねる展示施設として現在の場所に建物を建築。青銅器一式を移し、現在の展示の形が整った。
ちなみに「泉屋博古」の名は、中国・宋代(11世紀)に皇帝の命で編纂された古銅器の図録『博古図録』に由来する。歴史上、古銅器をまとめた最初の図録とされ、住友家の屋号である「泉屋」を冠することで、住友家収蔵の青銅器類を展示する施設であることを示した。
その入り口には、春翠の実の兄であり、最後の元老として大正天皇、昭和天皇を補佐した西園寺公望の毫による「泉屋博古」の題字が掲げられている。

絵画、陶芸、能装束のコレクションも

本館展示室
本館展示室
青銅器コレクションを常設展示するためにデザインされた展示室。ステップフロアで、時代ごとの変遷を鑑賞できる。

その後も、住友家から、数々の美術品の寄贈を受け、現在の収蔵品の総計は、3000点を超える。昭和61年(1986年)には、鹿ヶ谷に新館を増設、平成14年(2002年)には東京六本木の分館がオープンした。
現在、本館では、連続する4フロアを用いて、時代順に青銅器と鏡鑑を常設展示。その他、春翠の長男・寛一が収集した八大山人の「安晩帖」をはじめ、石濤の「黄山八勝画冊」「黄山図巻」「盧山観瀑図」(いずれも重文)など明清代の文人が描いた中国絵画の優品、「佐竹本三十六歌仙絵 源信明」(重文)などのやまと絵、黙庵霊淵筆「布袋図」(重文)などの水墨画、さらに中国や朝鮮の金銅仏や仏具、日本の鏡像や木彫仏など変化に富む仏教美術、中国文人の文房具や石印材、東アジアの金属貨史を網羅する古銭、刀剣や甲冑といった武具など、多岐にわたる工芸のコレクションも収蔵している。

クロード・モネ「モンソー公園」
クロード・モネ「モンソー公園」
 

東京分館では近代の洋画や日本画、同じく近代の陶芸、さらに茶道具や能面、能装束なども収蔵。クロード・モネ「モンソー公園」や岸田劉生の「二人麗子図」などの絵画や、板谷波山の陶芸作品など、注目度の非常に高い作品も多い。これら多様な収蔵品は、本館・分館各々の企画展示で随時公開される。

泉屋博古館上席研究員外山潔(とやま きよし)
監修者
泉屋博古館上席研究員
外山潔(とやま きよし)
成城大学大学院文学研究科修士卒業(美学美術史専攻)。香雪美術館学芸員を経て、泉屋博古館勤務。仏教美術史・中国工芸史が専門
泉屋博古館 分館長
泉屋博古館 分館長
野地耕一郎(のじ こういちろう)
1958年神奈川県生まれ。山種美術館学芸員を経て練馬区立美術館主任学芸員を歴任。2013年より泉屋博古館分館に勤務。

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