三井住友銀行大阪本店ビル 意匠編

その上質な意匠とこだわりぬいた堅牢性を竣工当時の写真を交えながら紹介します。

我が国モダニズム建築の端緒

外観

住友ビルデイングは、建築の潮流が、新古典主義からモダニズムへと進化する過渡期に誕生した大規模建築だ。

住友ビルデイング (現・三井住友銀行大阪本店ビル)が設計・建築された大正中期から昭和初期にかけては、日本各地で企業の拠点となる大型ビルの建築が相次いでいた。その多くは18世紀末から世界の建築界の大きな流れであった新古典主義の影響を受け、荘厳なオーダー(円柱)が林立する威風堂々としたファサード(※)をもち、ギリシャ・ローマの神殿建築を思わせる意匠を取り入れていた。

住友ビルデイングの外観にもオーダーはみられるが、東、西、北の入り口の左右、それぞれ二本ずつに限定される。それも比較的シンプルなイオニア式オーダーである。

そのかわりに目を引くのが、整然と配列された窓である。今日のオフィスビルとも共通するシンプルな意匠で、華美な装飾はなく、合理的かつ機能的な設計だ。厚い壁に穴をあけて据え付けたようで、かえって壁の厚さを強調しているようでもある。

20世紀初頭より勃興してきた実用性を重んじるモダニズム建築の流れをくむもので、当時としては最先端の意匠である。建築の新しい潮流を捉えて表現するところに、設計にあたった住友工作部のセンスと気概をみてとることができる。

また外壁の淡いクリーム色は、この建物に明るく柔らかな印象を持たせている。外壁は、一般的には天然石を適当な寸法に裁断して貼付けられることが多いが、この建物では、黄竜山石と呼ばれる石英粗面岩をあえて砕石、これにイタリア産大理石トラバーチンを砕いて混合し、細い鉄筋を入れて成形した擬石ブロックをふんだんに用いている。それも三種類の濃淡に違いのあるブロックが用意され、ビルの外壁四面にまばらに振り分け、自然な風合いを醸し出すよう工夫されている。

※ 建物の正面をなす外観。

ルネサンスの意匠を散りばめた壮麗な空間

この建物のハイライトは、なんといっても一階「銀行営業室」の大ホールである。扉を押し開けると、五階建ての建物内部を吹き抜けとした大空間が広がる。扉がやや小さめに作られているために、ホールの広がりが、より強調されている。現在は防水のために覆われているが、かつては天井がガラスとなっており、自然の光がフロアに明かりを落としていた。

林立する円柱は、外観とは異なり、柱頭部の彫刻が華麗なコリント式のオーダー。円柱の台座は御影石と鋳物。美しく磨き上げられ、オーダーの美しさを高めている。

円柱の表面はトラバーチンが貼られている。壁も多くの部分がトラバーチンで、「銀行営業室」に暖かさを醸し出している。ローマ郊外の村に産出したものを取り寄せたもので、外国産の大理石を使用した建物は、これが初めてということもあり、建築当初は話題を呼んでいたという。

ドア上のアーチや格子天井、梁など随所に植物をモチーフとした幾何学的な紋様が描かれ、緻密な味わいがある。ルネサンス期の教会建築によくみられる意匠で、金色線の入った黒大理石のカウンターなども格調高く、壮麗な空間を作り上げている。

かつては、ここでコンサートが行われたこともあったという。重厚なオーダー、複雑な紋様を描く天井は、いったいどんな音を響かせていたのだろうか。

幾何学的な紋様
壮麗な空間

屋上に設えられたリゾート風の空間

六階の社員食堂から、外側のテラスに出る。大きなアーチ窓の意匠に人造トラバーチンの外壁が、ヨーロッパの街角を思わせる空間を作り出しており、社員のくつろぎの時を包んでいる。

現在は屋根がかけられているが、かつてここにはスパニッシュ風のパティオがあり、憩いのスペースが広がっていた。

テラスからさらに外階段を上っていくと、建物の縁をなぞるようにぐるりと回廊が巡っている。ロマネスク風の塔がところどころに設けられ、地中海のリゾート地を歩いているかのような気分にさせられる。

アーチが切り取る空には、高速道路や超高層ビルも顔をのぞかせる。大正、昭和、平成と、時代が移り変わるなかこの石組みの塔は、つねに変わることなく変遷する町並みを見つめ続けてきたのである。

外壁
憩いのスペース
アーチが切り取る空

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