様々な領域の最前線でプロジェクトを率いる住友グループ各社社員の、
未来にかける熱い想いを紹介します。
愛媛県新居浜市の20kmほど沖合にある四阪島。1905年、新居浜からこの地に住友の銅製錬所が移転した。これに伴い建築されて110余年、製錬現場を見守ってきた住友家の別邸「日暮別邸」が、2018年秋、新居浜市内に移築され、記念館に生まれ変わった。記念館には、当時の「日暮別邸」を再現した居室内のほか、資料とともに歴史的背景を紹介する各種展示もある。「戦後、住友金属鉱山が建物を受け継いで修繕を重ねてきましたが、老朽化が進んで維持が困難になりました」と、同社の松下博彦さんが説明する。
「日暮別邸は歴史的建築物として価値があるだけでなく、住友の事業精神を象徴する建物でもあります。そこで住友グループでは、日暮別邸を広く一般の方に見ていただこうと、新居浜市に移築し記念館として整備することにしました」
住友グループの源流事業である銅製錬事業が西洋から近代的技術を導入し、新居浜で本格稼働したのは19世紀後半。それに伴い亜硫酸ガスによる煙害が発生した。そこで無人島であった四阪島に8年をかけて製錬所を建設し操業を開始したが、意に反して煙害はさらに広範囲に拡散してしまう。以来、被害を受けた地域住民に補償を行う一方で、技術革新を重ねて、1939年、ついに煙害を根絶させた。日暮別邸は35年にわたる煙害克服の歴史の舞台だったのだ。「先人は煙害問題をお金で解決するのではなく、技術の力を信じ、本質的な解決を図る姿勢で臨みました。これこそ住友の事業精神を体現するものであり、その象徴である日暮別邸の移築は住友グループとして取り組む価値があるプロジェクトと認められたのです」
着工は2016年。約2年半をかけて四阪島を遠望できる丘の上に移された。
「現在の建築基準法に適合させながら、往時のモダンなデザインを再現しています」と、館長の倉本勉さんも言う。工事には、住友グループ各社の技術を集結させた。
「内装は、住友林業が“取解き工事”、つまり仕組みを解明しながら部材を一つひとつ外していく手法で解体し、忠実に復元しました。1万点に上る内装部材の95%を再利用しています。各部材には番号を振り、どこに何があったかを記録して、復元しました。外装について、もともと地下部分は、硬い
ガラス窓には日本板硝子の強化ガラスを使用。レトロな雰囲気に溶け込みながら、標高約40mにある記念館の安全性を高めている。また、壁の内側にはコンクリートの耐震壁や、住友ゴム工業の高剛性・高減衰ゴムを搭載した住友林業オリジナルの「地震エネルギー吸収パネル」を導入。最先端の技術により来館者を守っている。
※ 鍰(からみ)レンガ:
鉱石から銅や銀などの金属を取り出す時に出る不純物を鋳型(いがた)で固めて作られたもの。
SUMITOMO QUARTERLY NO.155より転載