住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
生産から消費に至るフードチェーンの各領域で、
一般家庭での食品ロス削減を目指した実証実験を展開
より多くの食品を廃棄している当事者は、食品メーカーや小売、あるいは外食産業といった事業者か、それとも家庭で余った食べ物を捨てる消費者か。農林水産省と環境省が公表した2019年度の推計値によると、日本の年間食品ロス量合計570万トンのうち、事業系が309万トン、家庭系が261万トンで、多少の差はあれど概ね半数ずつとされる。ということは、食品ロス問題は企業、消費者のどちらかのみが取り組んでも効果は薄く、双方の協力が不可欠だ。
とはいえ、消費者からの自発的な活動で食品ロスを根本から減らすのは難しく、やはり企業のリードが必要となる。つまり、消費者が購入・利用することで食品ロス削減につながるモノやサービスを社会に提供していくことは、企業の使命ともいえる。日本総合研究所(以下、日本総研)は、2019年に設立した「SFC(スマートフードコンサンプション)構想研究会」の活動として、2022年1月から2月まで、東京都内で食品ロス削減の実証実験を実施している。
SFC構想研究会は、それまで企業があまり注目しなかった一般家庭における食品ロス削減に焦点を当て、食品消費の最適化を実現するためのサービスやビジネスモデルを検討する目的で日本総研が設立し、民間のさまざまな事業者が参加している。消費者を起点にサプライチェーン全体を最適化し、食品ロス削減を追求している点が特徴だ。
SFC構想研究会ではまず2019年度、参加企業によるディスカッションや調査、ワークショップ等を実施。翌2020年度は経済産業省の委託事業として、電子タグを用いて産地からネットスーパー、そして消費者宅まで、青果物の流通経路を追跡し、加えて鮮度の見える化やダイナミックプライシングによる食品ロス削減効果の実証実験を行った。
2021年度の実証実験は前年度の成果を引き継ぎ、同じく経済産業省の委託事業を活用して、前年度に得られた知見をさらに深掘りしていくのが目的だ。日本総研以外に、SFC構想研究会に参加するイトーヨーカ堂、今村商事、サトー、シルタス、凸版印刷、日立ソリューションズ西日本が実施主体となっている。前年度はフードチェーン全域を一貫して実施したが、今回は「産地〜小売店舗」「小売店舗」「小売店舗〜消費者」の3つの領域に分け、それぞれにおいてより詳細な実証を行った。
まず1番目の領域である「産地〜小売店舗」を対象とした実証実験では、青果物の産地から都内スーパーマーケットまでの流通経路を追跡したうえで、これまであまり活用されてこなかった収穫時の状態等の産地が持つ情報を消費者に伝え、商品選択の多様化を促して食品ロス削減の効果を検証する。消費者に青果物の新しい価値を訴求することで、行動変容につながるかどうかがテーマだ。
2番目の「小売店舗」の実証実験では、スーパーマーケットの店頭で電子棚札を活用し、賞味期限・消費期限に応じて販売価格を変えるダイナミックプライシングを導入する。例えば同じ商品でも値段が異なるという価格のバリエーションを増やすことで、消費者に新たな買い方を提案するとともに、売り切りの促進も追求している。こちらでは食品ロス削減に加えて、店舗の業務効率化の効果も検証する。
そして3番目の「小売店舗〜消費者」の実証実験では、購買データや消費・廃棄データを基に、「健康」という観点から食品の購入・調理・保管に関する情報を消費者に提供し、食品在庫を可視化する。在庫の見える化のために、消費者による消費・廃棄の登録を促す各種の仕掛け(効率性や経済性、ゲーム性等)をほどこしており、消費者がサービスを楽しみながら、無意識的に食品ロス削減に参加する・貢献することが可能かを検証する。
SFC構想研究会では2020年度の実証実験において、鮮度情報の提供により消費者の購買行動に変化を起こせる手応えを得ていた。またダイナミックプライシングや、消費者が家庭で在庫管理できるようにする実験でも、同様の廃棄削減効果が見られた。今回はフードチェーン領域を細分化することで、より有用な知見が得られると期待している。
日本総研は2020年、社内に食領域を専門に扱う研究開発プロジェクトチームを立ち上げた。フードテックへの注目度が高まる中、食品メーカーなど顧客からの食に関する相談も増えてきており、食のコンサルティングに注力していくことを目的に設置したものだ。結果的に社内ではSFC構想研究会の活動も同チームに内包し、取り組みを進めている。
同チームでは、食品ロス削減には消費者の意識の変化ではなく行動の変化がより重要だと考える。食品ロス削減を意識する消費者はすでに行動を変えているが、課題を解決するには意識しない消費者の行動も自然に変えていくことが必要という発想だ。
この視点に立つと、モノやサービス、あるいは店頭での販売方法をはじめ購買・消費に関わる仕組み自体を提供する企業の役割がより重要になる。例えば3番目の実証実験は「健康」という切り口で新たな仕組みを提供しているが、その裏では食品ロス削減にもつなげる狙いもあり、意識しない消費者にも行動変容を促す効果が期待される。一方で、すでに意識が高まっている消費者に対しては、ダイナミックプライシングで多様な買い方を提供することで、より高い食品ロス削減効果を生む可能性がある。このように、3領域のいずれにおいても消費者の行動変容にアプローチしている点が最大のポイントといえる。
実証実験は2月いっぱい実施され、終了後に詳細な検証を行う。日本総研はその後も顧客企業へのコンサルティングを通じながら、食品ロス削減という社会課題の解決に取り組んでいく。