住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
企業活動が環境・社会などに及ぼすインパクトを包括的に分析・評価し、
融資により継続的にサポート
企業のESGの取り組みをめぐる市場は変化を続けている。2006年、国連が責任投資原則(PRI)を策定し、機関投資家に対して投資の意思決定プロセスにESGを組み入れることを要求。これを機に、現在の巨大なESG市場の形成が始まっていった。この時点での投資手法は、経済的な「リスク」と「リターン」を分析し、その結果に基づき投資判断を行うというもの。それに対して2007年、米ロックフェラー財団が、従来のリスク、リターンの2本軸に、投資先の企業活動が及ぼす社会や環境への影響、すなわち「インパクト」という第3の軸を加え、財務的リターンと並行して社会的・環境的リターンも重視する「インパクト投資」を定義した。
2017年、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が「ポジティブ・インパクト金融原則」を策定し、2019年にはUNEP FIが提唱する「責任銀行原則(PRB)」が発足した。三井住友信託銀行は信託銀行として本業のファイナンスで社会貢献することを目指し、PRBの発足時から参画。2019年3月、世界初となる先進的なポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)の取り組みを開始した。
PIFは、企業活動が環境・社会などに及ぼすインパクトをポジティブ(プラス)・ネガティブ(マイナス)の両面から包括的に分析・評価し、その活動を融資により継続的にサポートする取り組みだ。主に上場企業の全ての事業を評価対象とし、サプライチェーンや製品のライフサイクルを俯瞰して、どこにポジティブまたはネガティブなインパクトが発現しているかを見ていく。その上で、ポジティブなインパクトであれば最大化、ネガティブなら最小化するためのモニタリング指標(KPI)を設定し、SDGsとも紐付けながら、企業の価値向上を一緒になって支援していくのがPIFの目的である。
三井住友信託銀行がこれまでに行ったPIF事例は17件。そのいくつかを見ていこう。住友ゴム工業はCO2の排出削減に向け、どの施策にリソースを優先配分すれば最も効果的であるかを割り出すためPIFに取り組んだ。分析・評価の結果、主要製品のタイヤは、ライフサイクルにおけるCO2発生量の80〜90%を走行時が占めることがわかった。そこで走行時のCO2を削減するため、タイヤの低燃費化に向けた取り組みの進捗率を指標にし、現在は実際の削減効果をモニタリングしている。
住友金属鉱山では、資源・製錬・材料の3事業連携による競争優位性を強みとして「世界の非鉄リーダー」を目指しており、その実現に向けて「2030年のありたい姿」を策定している。これにおける11の重要課題を6つのインパクト項目にまとめ、PIFを設定した。その中でも、三井住友信託銀行は脱炭素化に向けた世界的な流れの中で重要度を増すと考えられる、電気自動車(EV)の車載用電池材料に着目している。EVの普及に貢献するニッケルの供給確保や、車載用電池のリサイクル技術に関してモニタリング指標(KPI)を設定した。
また、住友林業グループでは、年間の温室効果ガス排出量1,000万t-CO2e強のうちスコープ3が96.3%とそのほとんどを占め、スコープ3のうち販売した戸建住宅の居住時の排出量が64.6%を占めていた(2018年度)。三井住友信託銀行は、温暖化対策にあたってはスコープ3のカテゴリー11の排出量削減における寄与度が高いインパクトを与えると判断し、「2030年のスコープ3のカテゴリー1および11合計の温室効果ガス排出量を2017年比16%削減する」という同社のSBT目標※をPIFの目標として設定。主たる施策であるネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の推進状況や、環境配慮型リフォームの受注率、国内木造建築における炭素固定量、環境緑化事業における環境配慮商品受注率をモニタリング指標と設定した。
また、企業のもたらすポジティブ・インパクトについて評価した取り組みもある。大日本住友製薬は研究重点3領域(精神神経、がん、再生・細胞医薬)などの研究開発やプロジェクト進捗、新薬使用状況などに指標を設定している。同社が注力するのは精神神経領域・がん領域をはじめ、国内外の患者数が多く今後も患者数増加が見込まれる領域だ。患者の早期社会復帰を実現することにより、社会的のみならず経済的に与えるポジティブ・インパクトも非常に大きいと容易に予測される。
企業のSDGsやESGに対する関心が高まる中、同行はPIFによって投融資先の企業価値向上を実現し、さらにその先で持続可能な社会への貢献を目指している。もともと同行では、アジア最大規模の信託銀行として社会に資する資金循環を実現するため、国内初の社会的責任ファンドを設立するなど、早い段階からESGを意識したビジネスを展開していた。直接的なCO2排出量が少ない銀行にできることとして、ファイナンスにより投融資先の事業活動に影響を及ぼすことで、より広い社会貢献につなげるという考え方だ。
こうした考え方の中で、PIFは事業のインパクトを評価・分析し、それをもとにプラスの影響を拡大し、マイナスの影響は抑制するという改善の実施に資金面で寄与するものであり、脱炭素やサプライチェーン最適化などに効果を期待する。今後については、インパクトをより正しく評価するため、金融機関としてテクノロジーの理解をさらに深めていくことがテーマだという。現在、カーボンニュートラルに向けたエネルギー、デバイス、ケミカルなどの分野で高度な専門性を持つ人材を採用し、TBF(Technology-based Finance)チームを組織している。PIFにより、インパクト評価と合わせて企業のイノベーション創出も支援することで、信託銀行の本業としての社会的責任を果たしていく。
⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。
記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。
(⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。)