住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
製造工程におけるCO2の削減と再生可能エネルギーの活用で
カーボンニュートラルの実現を推進していく
「灼熱のレンガ窯の中で真っ赤に溶けたガラス」というイメージが強く、多くのエネルギーを消費するガラス製造工程のかつての姿が、変わろうとしている。日本板硝子は、ガラス製造工程で発生するCO2の削減に向け、重油や天然ガスといったガラス原料の溶融に用いられる化石燃料に代わる、新たな低炭素燃料の導入に積極的に取り組んでいる。また、製造工程のみならず、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーに貢献するガラス製品開発の動きも活発だ。
ガラスの主な原料は「珪砂(けいしゃ)」と呼ばれる砂だ。「珪砂」だけでは溶ける温度が高くなりすぎるため、溶融温度を下げる目的で、「ソーダ灰」を混ぜ、さらに水に溶けにくくなるよう「石灰石」が加えられる。それらの原料を溶かすため、溶融窯は約1600℃の高温にまで熱せられる。またガラスが固まらないよう、溶融窯は常に高温で燃焼し続ける必要がある。こうした製造プロセスで、従来の化石燃料に代わる代替燃料を利用した脱炭素化が求められてきた。
日本板硝子は2021年8月に英国の同社事業所において水素を用いたガラス製造の実証実験を行い、世界で初めて6×3mサイズの建築用ガラスを製造することに成功した。これにより、水素でも従来燃料と同様の優れた溶融性能を達成できることや、ガラス溶融窯から排出されるCO2を大幅に削減できる可能性があることが確認された。ただその一方で、まだ十分ではない水素の供給インフラの整備やコストに関する課題も浮き彫りとなった。
そこで、水素などのゼロカーボンエネルギーが本格的に導入されるまでの移行期に使用可能な低炭素燃料を探るべく実施されたのが、2022年2月のバイオ燃料を100%利用したフロートガラス製造の実証実験だ。同社グループを含む英国の研究・技術組織である「Glass Futures」が主導し行われたこの実験でも、約1万5000m2のフロートガラスの製造に成功。現在英国において主燃料である天然ガスに比べて約80%ものCO2排出量削減効果が確認され、ゼロカーボンエネルギーが開発・実用化されるよりも早く、ガラス製造工程から発生されるCO2を大幅に削減できる可能性が示唆されたのである。
同社は、製造工程におけるCO2削減だけではなく、事業所内での電力を再生可能エネルギーに代替し、脱炭素化を目指すことにも積極的だ。2022年1月には、ポーランドで事業を行うガラスメーカーとしては初めて、風力発電所によって生成される再生可能電力の10年間にわたる購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)を締結した。ポーランド国内の事業所における年間電力需要のうち、約100GWh(ギガワット時)分を本契約により固定価格で購入することで、約1万5000台の乗用車が1年間の運転で排出する量(または走行距離2億7800万kmの排出量)のCO2削減効果が見込まれている。
それだけではない。2022年5月には、米国オハイオ州にあるロスフォード工場の敷地内に、1.4MW(メガワット)の発電能力を持つ4300枚以上のファーストソーラー社の薄膜太陽電池パネルを設置した。これらを稼働させることにより、年間約250万kWh(キロワット時)の再生可能エネルギーによる電力の供給が可能となる予定だ。
また同社では、製品開発の分野でも社会の脱炭素化の動きをサポートしようとしている。2019年5月、透明な太陽光発電パネル技術のリーダーである米ユビキタスエナジー(Ubiquitous Energy)社と透明ソーラーウインドウの共同開発を始めた。これは、従来の窓ガラスに発電機能を持たせたいわゆる「発電する窓」だ。通常の透明な窓ガラスの機能を保ちながら、目に見えない紫外線や赤外線を選択的に吸収し、発電する。現在、製品化に向けて様々な実験が重ねられており、ソーラーパネルの設置場所に制約のある都市部にも設置可能な建物一体型太陽光発電(BIPV)による再生可能エネルギーの創出に期待が寄せられている。
日本板硝子は2022年5月に、2030年までのCO2の排出削減目標を2018年対比30%に引き上げた上で、2050年までのカーボンニュートラル達成にコミットし、この実現を目指すことを発表した。カーボンニュートラル達成を社会の一員として当然にコミットすべき目標として認識し、その動きを加速するためだ。同社はこれらの取り組み以外にも、CO2の回収・貯蔵・利用、代替ガラス原料の使用、カレット(再利用ガラス)の使用比率を拡大するなどの様々な施策を検討している。カーボンニュートラルの実現に向けてさらに活動を推進していく。