住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
事業の礎である森林経営と木造建築、木の価値をさらに深める取り組みにより、
地球規模の課題解決に貢献
日本は国土面積の約7割を森林が占める、いわば森の国だ。しかし実態を見ると、その4割に及ぶ人工林の多くは十分な手入れがなされていない。
森林は「植え、育て、活用し、また植える」という循環可能な資源としての価値に加えて、二酸化炭素(CO2)の吸収・固定、生物多様性保全、水源涵養、土砂災害防止といった多面的機能を持っているが、現状のままではこうした機能の低下が懸念される。また、若い木は成熟した木に比べ多くのCO2を吸収するが、伐採が滞り森林が高齢化するとCO2の吸収量も落ちていく。森林を適切に維持していくには年々力を失ってきた林業の再生が必要であり、国としても2010年、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を制定して木の積極活用を促している。
森林、木を事業の柱とする住友林業は、森林維持と木材利用のこうした課題に本業で応えるため、2011年、商業・教育・事務所といった非住宅分野の施設を木造化・木質化する“木化”の取り組みを開始し、多くの実績を積み上げている。
同社は持続可能な森林経営という上記の目的の背景に、脱炭素社会の実現に向けた問題意識を有している。NPOのWorld Green Building Council(WGBC)の資料によると、世界中で排出される温室効果ガス(GHG)の総量中、建設部門が占める割合は38%に上る。同社は幅広いバリューチェーンで事業を展開しており、中でも川下にあたる建設部門のGHG排出については強い危機感を抱いている。
建設部門が出すGHGのうち、7割はエアコンなど居住時に排出されるオペレーショナルカーボンと呼ばれるもので、残りの3割がエンボディードカーボン、すなわち原材料の調達から加工、輸送、建築、解体というライフサイクルから発生するものといわれる。今後、再生可能エネルギー利用がさらに進めばオペレーショナルカーボンの排出は減っていくが、反対にエンボディードカーボンの比重は高まってしまう。そこで同社は、エンボディードカーボン削減に貢献する建築物の木化に力を入れているわけだ。
そもそもなぜ建築物の木化がGHG排出削減に寄与するのか。まず木造は、鉄骨や鉄筋コンクリート造の建築物に比べて躯体部分の材料を製造する際のCO2排出が少なくなる。また、木は生長過程で大気中にあるCO2を吸収し、固定しているため、木材を建築資材として活用すればそれだけCO2排出を抑制できることになる。加えて、解体した際は木材をバイオマス発電の燃料として使えるので、化石燃料の削減につながり、脱炭素に向けて効果的なインパクトを与えられる。
同社の木化事業において、近年、注目の建物が次々と実現している。2021年3月、東京都調布市の桐朋学園大学仙川キャンパスで、木造3階建ての音楽ホール「桐朋学園宗次ホール」が竣工した。同ホールはCLT(直交集成板)を構造材とする初めての音楽ホールで、音響効果を考慮したうえ、木質感あふれる内外観のデザインが特徴となっている。躯体部分のCO2排出量は同社の試算によると、鉄骨造より21%、鉄筋コンクリート造より28%削減でき、かつ約930m3の木材を使っているため約746トンの炭素を固定(CO2ベース)。居住時だけでなく、製造から解体までのトータルでエンボディードカーボンを削減する。
また翌4月には、東京都千代田区の上智大学キャンパスで国産材を用いた木造3階建て・耐火構造の「上智大学 15号館」が着工となった。竣工は2022年4月の予定で、桐朋学園のホールと同じくエンボディードカーボンの排出削減に貢献する。
一方で住友林業は、2020年9月に東京大学と産学協創協定を締結し、「木や植物の新たな価値創造による再生循環型未来社会協創事業」を開始した。この事業では木の最先端科学研究によって木が持つ価値を高め、森林資源の循環利用を通じたサーキュラーバイオエコノミーシステム(循環型共生経済)の構築を大目標としている。森林環境の保全に始まり、高性能建材の開発によって森林資源を都市にできるだけ長期間貯蔵させ、さらに森林資源の活用領域を広げるための用途開発、法制度・評価基準などについて議論を行っている。
同社はこれまでも社内で研究開発を続けてきたが、単独ではなかなか得られなかった最新の知見を獲得し、かつ研究開発の加速を実感しているという。加えて、今後発表する新中期経営計画における脱炭素社会実現に向けたビジョンや具体的取り組みに関し、方向性の整理にもつながっているとのことだ。
この取り組みにおいては、自然資本である森林の価値の見える化にハードルを感じているという。GHG削減に向けた森林の機能としては「除去」と「排出抑制」の2つの方法がある。木が生長の過程でCO2を吸収・固定する機能は前者に、木造建築の普及や木質資源の活用促進は後者に該当するが、とりわけ前者は定量化・数値化が難しい。しかしながらそれを実現していかなければ社会への浸透と課題解決は促進できないため、今後、東京大学とともに取り組みを加速していく考えだ。
このほか同社では、インドネシアの西カリマンタン州の泥炭地で植林事業を行っているが、2021年6月、株式会社IHIと「熱帯泥炭地コンサルティング」、「質の高い炭素クレジット」の事業化に向けて提携した。また福岡県苅田町では2021年7月に国内最大級の木質バイオマス発電所を開所し、再生可能エネルギーでの活用も進めている。冒頭で記したように、森林、木には多面的な機能がある。住友林業はこの機能を活かし、脱炭素社会実現に向けた課題解決に取り組むため、本業のビジネスで貢献していく。