住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
マテリアリティに掲げる社会課題解決の促進に向け、
NPOの活動をプロボノワークでサポート
日頃の業務で培った知識やスキルを無償で提供し、社会課題の解決に役立てる「プロボノ」を実施する企業が増えているが、現時点で国内金融機関における事例はあまり多くない。SMBC日興証券はSMBCグループの一員として以前からプロボノに取り組み、その社会的意義はもちろん、企業価値向上につながるプラスのインパクトがあることも実感していた。ただ、グループでの取り組みでは業務外の時間を活動に充てるとしていたため、繁忙期などが各社の参加者によって異なり、共同で活動する時間が限られてしまう傾向があった。
そこでSMBC日興証券は、一歩踏み込んだプロボノを模索した。社会課題の解決に取り組むNPO(非営利団体)などの組織の多くは、専門的な知識やアイデアは豊富に有しているものの、組織の運営をはじめ専門領域以外の知識・スキルを備えた人材が不足しがちだ。証券会社としては財務や金融などの知見はもちろん、企画力やプロジェクトマネジメント力も提供できるため、自社のリソースでNPOの活動に貢献することが可能である。
同社はプロボノと業務を結びつけ、社員が平日の業務時間中、証券会社ならではの知識・スキルなどのリソース提供と、社会人として培った経験に基づく支援を行える「プロボノワーク」制度を2020年3月から導入した。プロボノに充てられる時間は業務時間の最大20%(週7.5時間)としている。なお、同社のプロボノは、社員が「業務時間を活動に充てることができる」という点において、他社の同様の取り組みとは仕組みが異なる。
この制度を立ち上げた目的は主に3つある。1つは、経営戦略に掲げている「経営理念の実践を通じた社会課題の解決」およびSDGs(持続可能な開発目標)に絡めた「環境」「コミュニティ」「次世代」という同社のマテリアリティ(重点課題)が、社会課題の解決に取り組むNPOを支援することと合致した点だ。社員の積極参画を促すことで、地域コミュニティとの共生と貢献、そしてより大きな目標である持続可能な社会の実現に向けた、一歩踏み込んだ具体策だという。
2つ目の目的は社員の育成だ。周囲の環境が急速に変化し、先行きが不透明な時代に対応するには、新たな経験によって社員の能力向上とアイデア創出を促進することが必須だ。通常業務では関わりを持つことがない他部門の社員やNPOの代表・関係者など多様な人と協働し、今まで経験したことのないNPOの現場で様々な課題解決に取り組むことで、リーダーシップの実践を含め様々な経験ができる。また、業務時間も活用できるため、チームメンバーがより密度の高い時間を共有することになり、成果物の量や質も向上し、結果、参加者のエンゲージメント向上にもつながる。
そして3つ目は、企業価値の向上だ。社会課題の解決と社員育成を特色ある活動により推進することで、企業価値の源泉となる人的資本やブランドなどの知的資本が高まっていく。これら3点に経営陣も着目し、その価値を認めたことで制度の早期実現につながった。
同制度では、6カ月単位の年2期に分け、1つのNPOに対し6〜8人の社員がチームを組み、支援を行う。現在進行中の第3期(2021年7〜12月)時点までに参加社員は延べ94人、支援先NPOは計6団体となっている。参加社員は社内公募で選出し、業務時間外での参加を希望するサポーター社員も加えてチームを構成。支援先NPOは、その団体が解決に向けて取り組んでいる社会課題と具体的な活動に着目して選定する。
シングルマザーなど生活困窮者に対して低利・無担保の少額融資を行い、貧困からの脱却と自立を支援する「一般社団法人 グラミン日本」には、第1期から第3期まで継続して支援を行っている。支援対象業務はマイクロファイナンス(小規模融資)事業の推進、会員企業の他社プロボノチームとの協働推進、コーポレート機能強化などだ。
2期通して参加しているある社員は、マイクロファイナンスの提供と起業に向けたワークショップの開催により、非正規雇用の女性を主な対象として自立をサポートしている。参加のそもそものきっかけは何かしら社会貢献に携わりたいとの思いだったが、自身がシングルマザーであったことや、かつて海外で極度の貧困状況を目撃した経験から、グラミン日本でのプロボノを希望したとのことだ。
制度では業務時間の20%までをプロボノに充てられるが、実際には業務時間に加えてプライベートの時間を使うことも多いという。第2期でチームリーダーとして参加した時には、団体の全容把握や団体側との連携に費やす時間が増えた。しかし、苦労した以上に、それよりも多くの気づきを得ただけでなく、自らの考えをまとめて実現していくスキルを育てられ、本来の業務に対する自信が増したとのことだ。
児童養護施設などで育った若者の就労をサポートする「NPO法人 フェアスタートサポート」への支援も、第1期から続けて実施している。同社のマテリアリティの「次世代」はもちろん「コミュニティ」にも合致する活動であり、地域のロータリークラブとの連携推進による就労先企業の発掘や企業紹介動画の作成など様々な成果をすでに生み出している。
制度開始から1年半が経過した時点で、同社ではプロボノワークの社内定着が進んでいる実感を得ている。今後も参加社員と支援団体を拡大し、多様な社会課題解決への貢献を広げていく考えだ。