住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
検査時の移動時間・待ち時間を削減する遠隔検査システムの開発で、
建設現場の生産性向上と働き方改革を推進
山間部などのインフラ建設現場は、工事事務所から遠い場所に位置していることが多い。また、大規模な建設工事は施工各所が複数あり、それぞれの現場が離れているのも珍しくない。こうした現場で、施工が図面通りに行われていることを確認する発注者立会検査を行う場合、事務所などから現場に向かう発注者の移動に時間を要し、受注者には待ち時間が発生してしまう。また、同時に複数箇所の施工を行う橋梁工事や高速道路のリニューアル工事など複数現場の行き来を短時間で行えないロケーションでは、現地にいる受注者の移動自体にもやはり時間がかかる。
検査時のこうした移動時間・待ち時間を削減し、受発注者の作業効率化を図るのが、ネットワークとカメラを駆使して離れた場所から検査に立ち会う「遠隔臨場」だ。国土交通省が2020年5月に遠隔臨場の実施要領を発表し、いまその試みが各地で展開されている。
三井住友建設は、この遠隔臨場をより効率的にサポートする遠隔検査システム「遠検™」を開発した。2020年9月にNEXCO東日本(東日本高速道路)が発注した関越自動車道の松川橋床版取替工事(新潟県)において、リモートでの検査に初めて本格導入した。
「遠検™」は、iPadのアプリとして開発された。ビデオによる映像確認と音声通話機能を有し、さらに図面や工事管理帳票といった立会検査で必要な書類(PDF形式)を受発注者の双方で表示・記入することが可能だ。あらかじめ工事の立会検査項目を登録しておけば、受発注者がアプリを起動してログインするだけでスピーディーに検査を開始できる。クラウド上に保存しておいた各種書類をスムーズにダウンロードし、受発注者双方で共有しながら検査を進められるうえ、書類の電子化で報告書を作成する時間の削減にも寄与する。なお、現場の様子を撮影するカメラや音声を拾うマイク、通信機能などはもちろんiPadに内蔵されたものを使う。
一般的にこうした検査はPC端末にウェアラブルカメラやネットワークカメラを接続し、Web会議システム、帳票など書類編集用ソフトといった複数のツールを組み合わせることで実現する。同社でも遠隔臨場の導入にあたり、当初は一般的なWeb会議システムを利用することを検討したという。しかしそれでは取り扱いが煩雑で、操作を覚える時間を要するほか、カメラや端末など充電が必要な機器が多く、管理の手間も発生するため、かえって現場担当者の負担を増やしてしまう懸念があった。その点「遠検™」はiPadひとつで完結するため、担当者に余計な負荷を強いることなく業務効率化や移動時間などの削減を実現し、時間の有効活用など新たな働き方を支援するのが最大のポイントだ。
この「遠検™」を活用することで、働き方以外のメリットも提供できる。スタッフなどの健康の確保だ。新型コロナウイルスの感染拡大防止は、業務上リアルな現場を持たざるを得ない多くの企業にとって重大なテーマである。遠隔臨場に「遠検™」を利用すれば、現地で密な状態を形成することがないうえ、必要書類のやり取りも画面上で完結できるため、コロナ対策としても安全な検査が可能になるわけだ。
同社が「遠検™」の開発に着手したのは2019年5月頃、すなわちパンデミックが発生する以前のことである。当時は国交省が遠隔臨場の実施要領を発表する以前だったが、立会検査に伴うさまざまな非効率はすでに懸案となっており、それを解消する仕組みへのニーズが現場から上がっていた。加えて、オフィスと現場とのやり取りが必要な社内検査をリモート化したいというニーズも生まれていた。
こうした課題の解決に向けてアプリ開発を進め、プロトタイプができあがるまさにそのタイミングで、2020年春に新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。その後も試用した現場の意見を聞きながら、誰もが直感的に操作できるシンプルな仕様を目指して改善を重ね、試験導入を経て、前述の松川橋における本格導入へとつなげていった。開発スタートから約1年半、プロトタイプから半年程度という、スピード感あふれる展開だった。ちなみにNEXCO東日本は、検査をリモートでスムーズに行えることに加え、コロナ対策に期待できる効果も高く評価して導入に至ったという。
「遠検™」の今後については、現場のヒアリングを重ねたうえで意見を取り入れ、使いやすさのさらなるブラッシュアップを図るとのことだ。一方では社外からの反響が大きいことを受け、外販に向けた体制整備も進めている。
三井住友建設は「中期経営計画2019-2021」の基本方針の一つに「建設生産プロセスの変革」を掲げている。建設に関わる業務のデジタル化で生産性向上と働き方改革を実現するという文脈に、「遠検™」の取り組みはまさに合致しているといえる。さらに、少子高齢化による生産年齢人口の減少の影響を大きく受けている建設業界にとっては、中長期の目線で社会に不可欠なインフラ維持の担い手となる人材を確保することが重要な課題となる。同社はICT活用により従来のイメージとは異なる新しい魅力を打ち出すことで、その課題解決の一助としたい考えも持っている。