住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
先住民との対話を通じて理解を深め、鉱物資源採掘による産業や社会の発展に寄与する
日本で最も歴史のある企業の一つである住友金属鉱山は、銅の鉱山開発や製錬など住友グループの源流の事業を受け継ぐ非鉄金属企業だ。現在は世界各地で鉱山開発、製錬を行うほか、電池材料や機能性材料の生産、素材の提供を通じて産業や社会の発展に寄与している。非鉄金属の資源確保から高機能材料の提供までを行う、資源・製錬・材料の「3事業連携」は、世界的にもユニークなビジネスモデルだ。
住友金属鉱山では、「『世界の非鉄リーダー』を目指す」という長期ビジョン実現に向けて、2020年に「2030年のありたい姿」を策定した。2030年に向けて取り組むべき経営課題の観点も含め11個のマテリアリティ(重要課題)を設定し、それと関連するSDGsとして特に目標12「つくる責任 つかう責任」を果たすことを最重要課題と定めている。
社会のさまざまな場面で活用される鉱物を確保し、安定的に社会に供給していくことで、持続可能な社会の発展に貢献していくには、サプライチェーンの上流に当たる天然資源である鉱物を採掘する鉱山開発や金属製錬が欠かせない。資源が存在する地域に居住する先住民との協調や連携は不可欠であり、先住民の歴史や伝統、文化を理解した上で対話を続けていく必要がある。そのためマテリアリティの一つに「先住民の権利」を掲げ、「先住民の伝統と文化を理解し尊重する企業」という企業としてのありたい姿を設定した。
また以前から児童労働および強制労働の防止を掲げていたグループ人権方針について、より国際規範に沿うよう2022年6月に改正。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を支持し、「従業員」「地域住民・先住民」「サプライチェーン(その従業員を含む)」という3領域に特に重点をおいて人権尊重を推進していくことを明記した。この人権方針では、国連総会で2007年に採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)を参照する国際規範の一つとして挙げている。先住民族の権利回復を掲げるこれらの国際規範を参考に、住友金属鉱山は地元行政などとも協力しながら、先住民の伝統と文化を理解した上で対話を続け、影響の回避を優先して慎重に事業を進めていく。
具体的な取り組みとしては、2013年にフィリピンで操業を開始したグループ会社であるタガニートHPALニッケル社(以下、THPAL)では、その地域で伝統的な生活・文化を営んできた、先住民の人々のための小学校や住宅、集会所を建設。創作民芸品や農作物の交換所も開設して、生計を立てていけるよう支援を続けている。
2017年からはカナダで現地鉱山会社のアイアムゴールド社と共同で進めているコテ金開発プロジェクトに参画。開発により影響を受ける二つの先住民団体が主催する文化研修会などに参加して、継続的な対話を実施。開発に向け相互の理解を深めることに注力し、最終的に先住民団体との同意であるImpact Benefit Agreement(互恵に関する同意)を締結。この同意のもと先住民の雇用創出などに取り組んでいる。
また、現場での対応だけでなく、2021年からは先住民の伝統と文化についてグループ社員の理解を深めるために動画を作成し、eラーニングとして展開。2021年度末時点で国内外合わせて約6000名の社員が受講した。
1590年に京都において銅製錬・銅細工で創業した住友金属鉱山は、430年以上にわたる歴史の中で築き上げてきた「住友の事業精神」に基づき、事業を通じた社会課題の解決に取り組んできた。経営理念に「地球および社会との共存」と「人間尊重」を掲げ、鉱山開発など事業により影響を受ける先住民との対話と相互理解を深めながら、資源の確保と非鉄金属素材や機能性材料の安定供給を通じて企業価値の最大化を目指し、持続可能な社会の形成に取り組んでいく。