住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
工場が立地する地元・福島産の水素を生産工程の熱源に活用し、
CO2を排出しないタイヤ製造の実現を目指す
製造業においては、製造工程でのCO2排出ゼロの実現が重要なテーマだ。まさに事業の柱の部分で脱炭素への貢献を進めていかなければ、会社の未来にとって大きなリスクになるという危機意識は多くの製造業に共通している。
事業の中心に自動車向けのタイヤ製造がある住友ゴム工業は2021年、サステナビリティ長期方針を策定した。経済的価値向上と社会的価値向上の取り組みを2本立てで進め、ESG経営を推進することで、2050年のカーボンニュートラル(Scope1、2)達成をはじめとする様々な目標の実現を目指している。
同社では省エネルギーの取り組みやコージェネレーション(熱電併給)、太陽光発電の活用などによってCO2排出の削減を進めているが、これらだけではCO2はゼロにならない。タイヤの製造工程では熱源として必要な蒸気を作り出すためにCO2を排出する。この蒸気は100℃を超える高温・高圧である故、電気で発生させるのは技術的に難しい。蒸気を使わない技術を開発するという選択肢もあるものの、仮に開発しても新たな設備が必要となって高額の費用がかかり、既存の生産装置も使えなくなってしまう。そのため現状は化石燃料である天然ガスを用いているが、このままでは2050年のカーボンニュートラル達成は難しいと社内では感じていた。
天然ガスに代わる蒸気発生のエネルギーとして同社が注目したのが、水素だ。水素であれば燃焼させてもCO2を排出せずに蒸気を作れるのはもちろん、技術が一定程度確立されており、既存の装置を継続利用できる点もメリット。加えて、タイヤ製造でこれまで培ってきたノウハウもそのまま活かせることから、現時点では水素によって蒸気を発生させるのが最も現実的かつ効果的だと判断し、実証実験に乗り出した。
同社は福島県白河市にタイヤ製造の主力工場を構えている。1974年に操業開始された同工場は、国内の他社も含めたタイヤ工場で最大級の規模を誇る。同時に研究開発の拠点であり、広大な敷地も有していることから今後の設備拡張にも容易に対応できる。この白河工場で、2021年8月から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として支援を受け、タイヤ製造におけるカーボンニュートラル化に向けた水素活用の実証実験を開始した。
タイヤの製造には、ゴムと薬品の混合、タイヤ部材の製造、部材の組み立て、加熱と加圧で化学反応を起こし数種類のゴムを一体化してタイヤにする「加硫」、さらに検査、出荷という六つの工程があるが、このうち蒸気を熱源に用いるのが加硫の工程だ。前述のように電力では発生が難しい高温・高圧の熱が求められるため、タイヤ・ゴム業界においてはカーボンニュートラルの最大のハードルとなっている。
実証実験の目的としては、この加硫の工程で水素ボイラーの安定・効率稼働と水素への燃料転換の有効性を評価することに加えて、工場が立地する地元・福島で生産された水素を利用することで水素活用の地産地消モデルの構築も掲げている。福島県は再生可能エネルギー利活用の先進地域で、水素研究も進んでいる。今回の実証実験では白河工場に最も近い郡山で製造される水素を主に利用し、バックアップとしていわきで製造される水素も利用するなど、「福島産」の水素で賄う計画だ。
地元の水素を使うことで輸送時のCO2排出を減らせるのはもちろん、経済産業省・資源エネルギー庁と福島県が進める「福島新エネ社会構想」に賛同し、需要家として参画することで地産地消に貢献する狙いもある。
2022年4月、白河工場構内に水素ガス受け入れ設備と水素ボイラーを設置する工事をスタート。2023年1月の稼働開始を計画している。併せて、実証実験とは別に太陽光発電設備も設置し、この電気の利用も含めて、製造時にCO2排出量がゼロとなるタイヤの開発を目指す。