住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
容器包装の樹脂原料を統一できる新規ポリエチレン材料の開発で、
プラスチック製品の水平リサイクルに取り組む
カーボンニュートラルの達成に向けて、各企業が取り組みを加速させている。住友化学は2022~2024年度の中期経営計画で基本方針の一つに、カーボンニュートラルに向けた取り組みを「責務」と「貢献」の両面から推進すると挙げている。まず「責務」としては2030年度までにScope1、2の温室効果ガス(GHG)排出量を2013年度比50%削減、そして2050年までに実質ゼロ達成という具体的な数値を掲げている。一方、「貢献」の部分では、同社ならではの様々な技術やそれを生かした製品によって世の中のカーボンニュートラルが進むことを目指しており、そこにはリサイクルによるプラスチック資源循環の促進も含まれている。
カーボンニュートラルを達成するには、化石由来の資源利用を減らしていくことはもちろん、廃棄物の焼却を減らすことも重要だ。食品や日用品のパッケージに多く使われているプラスチック製容器包装材料のリサイクル性を高め、資源の循環利用を促進する取り組みは、この2つの実現を後押しするものになる。社会の要請としても、2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行され、使い捨てプラスチック製品の削減と共に、リサイクルしやすいプラスチック素材の開発が求められてきたという背景がある。
住友化学は、2022年に容器包装向けの新しいポリエチレン(PE)「スミクル®」を開発した。この「スミクル®」は、リサイクルが難しかったプラスチック製品の再資源化に貢献する素材として注目されている。プラスチック製の容器包装は、一般に、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PEなど特徴が異なる様々な原料を重ね合わせて作られている。例えば液体洗剤の容器包装の場合、基材層にはナイロンやPETが、熱でシールするシーラント層にはPEが使われている。原料が1種類ではないため、使用済みの容器包装のマテリアルリサイクル(材料を製品の原料として再利用すること)に際してそれぞれの原料を分離・抽出するのが難しく、そのままマテリアルリサイクルすると品質が低下してしまうことから多くは焼却されている。カスケード利用(元の製品よりも品質の低い製品にリサイクルすること)されるものもあるが、最終的には廃棄物として燃やされている。
「スミクル®」は、特殊な配合技術によって高い剛性を実現できるPEだ。これまでプラスチック容器包装材料の基材層に使われていたナイロンやPETの代わりに「スミクル®」を利用し、シーラント層のPEと組み合わせれば、PEのみという単一のプラスチック原料で容器包装フィルムを製造することが可能になる。これによって包装材料の品質を落とすことなく、プラスチック製品を元の製品と同様の用途にリサイクルする「水平リサイクル」が可能になる。すなわち、これまでは難しかった容器包装フィルムから容器包装フィルムへのリサイクルが実現するわけだ。
そして、水平リサイクルを続けていけば、廃棄したり焼却したりするプラスチックを減らすことができ、プラスチック素材のもととなる化石由来原料の使用量を減らすことができる。
高剛性で強度を付与できる「スミクル®」によって実現される、リサイクルしやすい単一のプラスチック素材からなる容器包装材料は、環境への対応を意識するメーカーなどから高い注目を集め、多くの問い合わせがきているという。すでにサンプル品の提供も行っている。同社では「スミクル®」をプラスチックのリサイクル促進に貢献する製品と位置づけ、早期の事業化を目指している。
住友化学では、単に「スミクル®」を開発・製造するだけでなく、最終製品として使われた後にまで責任を果たすべきだとの考えを持っている。そこで今後は、「スミクル®」を用いたリサイクルを社会で実際に進めるため、容器包装の分別・回収スキームの構築を含めた体制整備にも取り組んでいく考えだ。また、同社ではリサイクル技術の活用により得られる再生プラスチック製品について「Meguri®」という独自ブランドを立ち上げており、将来的には、今回開発の「スミクル®」を使用した容器包装材料をベースにしたリサイクル材を同ブランドで販売することも検討中という。