住友が取り組む社会課題 ~未来への羅針盤~
主力製品の油圧ショベルの技術開発を通じて、CO2削減と働き手の安全な環境を目指す
住友建機は、油圧ショベル、道路機械などの建設機械の製造から販売までを事業の柱とし、最新鋭の建設機械を日本だけでなく世界各国に供給している。これらの建設機械は時代とともに変遷し、住友建機が提供する価値にも変化が生じている。社会課題の解決に向けた取り組みとしては、建設機械が排出するCO2を減らす「脱炭素」に関する取り組みと、建設現場で作業する人間にとって安全・安心な建設機械を提供する「新しい働き方」への取り組みの2つがある。
住友建機が、世界中に製品を供給することは、裏を返せば世界中でCO2を排出していることになる。以前であれば、公害規制よりもパワーが必要とされたが、時代の変化とともにディーゼルエンジン搭載の建設機械も規制をクリアしながら環境負荷を低減してきた。さらにカーボンニュートラル実現に向けて、住友建機ではエンジンに加えてモーターを組み合わせたハイブリッド型の油圧ショベルをいち早く開発し、製品使用時のCO2削減に貢献している。こうした取り組みは、2007年度に省エネルギーセンターの省エネ大賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ている。
もう1つの社会課題解決への取り組みが、建設現場における作業者の安全・安心を確保することだ。機械と人間が協働する現場では、事故や災害などが発生していて、その数は年々減少しているとはいえゼロには至っていない。こうした労働災害リスクを極限まで減らすために長年取り組んでいるのが、「FVM(フィールドビューモニター)」の機能の開発であり、その機能は継続的に進化している。
油圧ショベルには、運転室が車体の左側についている。このため、操作時に右側や後方が死角になりやすい。そこで、3つのカメラを搭載して車体の後方周囲270度をぐるりと俯瞰して映像で確認できる機能を開発した。これが2011年に提供を開始した初代のFVMである。同年、オプションで油圧ショベルへの搭載を開始し、2012年には国内向け油圧ショベルに標準装備として取り付けることで安全性を高めた。
初代のFVMは、死角になりやすい後方周囲270度に対して、近傍だけでなく遠方まで映し出すことができ、オペレーターが周囲の状況を的確に把握することができた。この機能はやがて業界のデファクトスタンダードへつながっていった。一方で、オペレーターは常に周囲の状況を確認する必要があるので、モニターを常に見ているわけではない。そこで、2017年には、油圧ショベルの周辺にいる人を検知するとモニター上に表示が出るのと同時に、アラーム音で危険を知らせるお知らせ機能付き周囲監視装置「FVM2」を開発し、提供を始めた。これは機械学習による画像認識技術を用いたものだ。
その後、自家用車でも衝突軽減システムが普及し、油圧ショベルなどの建設機械にも衝突軽減システムの装備が求められるようになった。住友建機では2020年に衝突軽減システムとお知らせ機能を搭載した「FVM2+」の提供を開始することになった。衝突軽減システムは、旋回・後進・走行中に、一定の範囲内で安全ベストを着た人を検知すると、機械が自動的に減速・停止する。
建設現場や土木現場で使われる建設機械だけに、利用される環境は総じて厳しい。現場には作業者や機材、土の山などが多くあり、さらに砂埃や雨など様々な環境下で、より正確に人間を識別することが求められる。そこで3DセンサーのLiDAR(Light Detection And Ranging、光による検知と測距)センサーを採用した。レーザー光の反射を使って三次元測距ができ、FVM2+では現場作業者が着用する安全ベストからの反射を検知することで「人間だけに反応する」ことに成功した。
同時に、オペレーターの体に負担をかけないために、衝突軽減システムでは停止の衝撃を和らげるように減速してから停止するようにチューニングをしている。衝突の危険を防ぎながら、オペレーターにも負担をかけない減速の調整には、現場でのヒアリングなどを通じた知見を生かした。さらに、衝突軽減システムの稼働をリアルタイムで把握するシステムも開発し、管理者がヒヤリハットマップを作るなどすることで、データを利用した労働災害リスクの低下にもつなげている。
2022年11月には、衝突軽減システム搭載のFVM2+は、NETIS(新技術情報提供システム)に登録され、ユーザーがFVM2+搭載の建設機械を採用すると、公共事業などの入札で加点の対象となり、その安全・安心への貢献は広く認められるようになった。初代のFVMから住友建機がこだわり抜く安全・安心な現場を支える建設機械の開発と提供は、さらに高度な安全性に結びつくように継続されていく。