和歌山県南部に位置するみなべ・田辺地域では、江戸時代から400年以上にわたり高品質な梅を生産してきた。2015年12月には、「みなべ・田辺の梅システム」が次世代に受け継がれるべき重要な伝統産業、文化として世界農業遺産に認定されている。
梅干しの加工工程で発生する梅調味廃液は、BOD(生物化学的酸素要求量)※が10万mg/lを超える非常に高濃度な廃液で、一般的な好気性の排水処理設備では処理が難しい。廃液の処理には産廃業者を利用する必要があるが、コストが高く地域の梅干し加工業者にとって大きな負担となっていた。
住友重機械工業の子会社で、上下水事業や工場排水処理事業を手掛ける住友重機械エンバイロメントは、業界最大手の梅干し加工会社である中田食品を事業主体として「梅調味液バイオガス発電所」を建設した。スキームの構築は地元の産業廃棄物運搬業者である宮惣ケミカルと共同で行い、同社が中田食品の梅調味液に加え、他の梅干し加工業者からの調味液収集と運搬、設備の運営管理を担当。住友重機械エンバイロメントが長年培ってきた水処理技術を生かし、設備の設計、施工を行った。
本設備では、従来、大半が廃棄されていた梅調味液を中和・濃度調整後、嫌気性排水処理を行い、その過程で発生するバイオガスを利用して発電を行うことでエネルギーを創出。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を利用して売電することでプラント建設コストの回収を行う計画となっている。
梅調味液は糖分濃度が高く、嫌気性処理には不向きとされていたが、住友重機械エンバイロメントの独自技術でこの問題を解決し設備化。一般的な好気性排水処理に比べ、動力の削減、余剰汚泥発生がないことから、処理コストを大幅に削減することが可能となった。プラント建設計画に際しては地元の上富田町も建設用地や処理に必要な井戸水の提供で協力するなど、まさに地域ぐるみのプロジェクトとなった。こうして環境への負荷を低減しながら効率的な梅調味廃液の処理を行い、地域産業の負担軽減を実現する梅調味液バイオガス発電所が完成した。
プラントは2019年4月に稼働を開始。まずは県全体で年間に出る梅調味廃液約6万トンのうち8000トンの処理を計画している。今後も住友重機械エンバイロメントは同様の問題を抱える地域行政や業界に対して情報を発信し、持続的なまちづくりに貢献していく考えだ。