テーマ4
SDGsと住友「健康」

 ワンポイント解説
SDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」は、すべての人々にと明記していますが、世界には5歳まで生きられない子どもが年間500万人以上存在するなど、途上国などにおいて適切な保険医療サービスを受けられない人が今も数多く存在しています。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には、『我々は、2030年までにこのような防ぐことのできる死をなくすことによって、 新生児、子供、妊産婦の死亡を削減するために今日までに実現した進歩を加速することを約束する。』と強い決意が記載されていますが、保健医療におけるSDGsの達成に向けて、課題は山積みの状況です。さらに新型コロナウイルスによる肺炎が世界各地に広がり、保健医療サービスの向上は言うまでもなく、世界において一段と喫緊の課題になっています。
住友グループでは、住友化学がマラリア予防のために開発した蚊帳をはじめとして、事業活動を通じた保健医療サービスの向上に貢献する取り組みが数多く進んでおり、すべての人が適切な医療保険サービスを受けられるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて、創薬や病院改革、サステナブルファイナンスなど多様なアプローチで貢献することが今後も期待されています。

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

住友化学

アフリカで依然多数の死者を出すマラリアなど、熱帯感染症の対策製品の提供を通じて人々の健康に貢献

©Maggie Hallahan
蚊帳(オリセット®ネット)に守られる子どもたち。

人類の歴史において常に生命を脅かし続ける感染症。日本では既に縁遠く感じられるマラリアも、世界的に見ればアフリカを中心に依然として年間2億人を超える患者を出している。WHO(世界保健機関)の資料によれば、2018年の推定死者数は40万5000人で、その94%がアフリカ、67%が5歳未満の子どもだ。

マラリアはハマダラカという蚊によって媒介される。マラリア防除用の殺虫剤というと日本では終戦後、米軍が使用したDDT(有機塩素系殺虫剤)のイメージが強いかもしれない。DDTは衛生状態が悪かった当時の日本でシラミやマラリア蚊の防除に活躍したものの、環境問題が指摘され、現在は多くの国で製造・使用が禁止されている。

住友化学は半世紀前からベクターコントロール、すなわち熱帯感染症を媒介する蚊の防除対策に本業で取り組み続けている。同社はもともと戦前、肥料の製造から社業を始め、その延長で殺虫剤の技術も進化させてきた。長年培われた技術を基に生まれた画期的な製品が、マラリアを媒介する蚊に有効な防虫剤を練り込み、1990年代後半に開発した長期残効性防虫蚊帳「オリセット®ネット」だ。同製品は工場向けの虫除け網戸の技術を基にしたもので、技術自体は以前からあったが、1990年代に「マラリア防除に応用できないか」とのアイデアが社内から上がり、製品化に向かったという。

SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)ではマラリアのまん延防止が掲げられており、同社は当時から「オリセット®ネット」の配布を様々な国際団体を通じて続けてきた。同製品は2001年、世界で初めて長期残効性の蚊帳としてWHOの認証を取得し、マラリア患者の多いアフリカを中心に普及が進んだ。マラリア防除向け製品としてはこの他に室内残効性スプレー(IRS)も開発し、普及に力を入れてきた。IRSは、人を刺したあと壁にとまるハマダラカの習性を利用し、壁にあらかじめ噴霧しておくことでハマダラカを駆除する製品だ。

「スミシールド™ 50WG」の屋内残留散布。

こうした製品の貢献もあり、世界のマラリア罹患率は2010年にかけ低下していったものの、2014年ごろから特にアフリカで再び増加の傾向を見せ始めた。その原因の一つとして、従来使われてきた殺虫剤成分に対し、一部地域の蚊の抵抗性が増したことが報告されている。このことから同社は、新たな有効成分を含有したIRS「スミシールド™50WG」の開発に着手、2017年にはWHOの認証を取得し、2018年にアフリカ各国での供給を開始した。

同製品は壁に適量をムラなく噴霧することが必要であり、正しい使い方を現地で伝えることも重要な業務。そこで社員がアフリカに赴き、技術指導とパッケージで普及を進めている。現在は数量を増やし、普及を加速させるフェーズに入っているという。住友化学はこれ以外にも、同様に蚊が媒介するデング熱・ジカ熱対策用の幼虫駆除剤「スミラブ®2MR」など、熱帯感染症予防に効果を発揮する製品を数々リリースしている。本業を通じ、アフリカをはじめとする世界の人々の健康にこれからも貢献していく考えだ。

従来製品より長期間にわたって蚊の発生を防除できる「スミラブ®2MR」とその使用例。

三井住友銀行

資金提供を通じて顧客企業とサステナブルな事業を共創

三井住友銀行は、成長産業・成長企業を金融面からサポートする部署、成長産業クラスターを設置している。事業組成や計画段階から参画することで、案件を「持ち込まれる」ものではなく、「共に作る」ものと捉えた施策を進めている。

SDGsの目標達成に取り組む企業が増える中、グリーンボンド(環境債)やソーシャルボンド(社会貢献債)の発行残高が世界的に急成長しており、グリーンローンやソーシャルローンの需要も高まりつつある。SDGsの取り組みへの資金提供にあたり、財務情報(リスクとリターン)に加えた新たな判断軸として、持続可能な社会の実現に対する「インパクト(影響・効果)」を取り入れているのが三井住友銀行だ。

同行は2018年10月から中小企業のSDGsへの取り組みをサポートする「SDGs経営計画策定支援」の取り扱いを開始した。2019年1月に資金使途を社会面に配慮した事業を対象とするSDGsソーシャルローンをリリースし、同年4月には資金使途を環境面に配慮した事業を対象とするグリーンローンと環境・社会の両面に配慮した事業を対象とするサステナビリティローンを加えて「SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローン」と改定した。

「SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローン」は、顧客企業の報告(インパクトレポート)に基づき、CO2排出削減量や社会貢献に関わるインパクトの「見える化」をサポートする。SDGsの目標達成に向け、「インパクトが分かりやすく開示されているファイナンス商品に投資したい」という投資家のニーズと、「インパクトを効果的に開示したい」という企業のニーズを結びつけるため、ローンの対象事業がSDGsの17のゴールのうちどれに貢献できるかということを掘り下げ、アドバイスも提供する。

SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローンのスキーム図
SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローンは、資金使途を特定のプロジェクトに限定しているほか、ローンのフレームワークを作成してプロジェクトの「見える化」を図り、外部評価機関による評価を取得、さらに融資後1年ごとに効果を報告することなどが通常のローンと異なる。
SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローンを推進する成長産業クラスターのメンバー。

同ローンの第一号案件となったのは介護施設や病院の供給促進を通じてSDGsの達成を目指すヘルスケア&メディカル投資法人への融資だ。この事例は国際資本市場協会(ICMA)が策定したソーシャルボンド原則に基づく国内初のソーシャルローンとして話題を呼ぶと共に、2019年12月に同法人が公表したインパクトレポートにおいて、三井住友銀行は非財務情報の開示に向けたアドバイスも提供している。また、受託臨床検査最大手・みらかホールディングスのソーシャルファイナンスフレームワークの策定支援では、「社会保障費の抑制」や「検査の質の向上と革新的な技術開発」といった社会的課題の解決に貢献するものとして、同社の「臨床検査施設新設に伴う検査機器・ITシステムの導入」や「基礎研究の推進」をソーシャルプロジェクトとして位置づけ、三井住友銀行とSMBC日興証券の「銀証連携」により、ソーシャルローンとソーシャルボンドを組み合わせた資金調達を実現した。

三井住友銀行は、顧客企業の持続可能な事業に対して資金を提供するだけでなく、それらの事業実現に向けたパートナーとして共にSDGsに取り組む。SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローンは上場企業を中心とした大企業を主なターゲットとしているが、SDGsへの取り組みに前向きな中堅・中小企業が増えていることを受け、今後はそうした企業への取り扱いを拡大していく方針だ。

住友生命保険

健康増進を促す保険商品を軸に、健康寿命の延伸を目指す

言うまでもなく日本は世界トップクラスの長寿国であり、近年は人生100年時代に突入したといわれる。そこでいま注目されるのが、ただ単に長生きするだけでなく、長い人生をいかに健康に、生き生きと暮らせるか、つまり健康寿命だ。

高齢化と医療技術の進歩で社会が大きく変化する中で、生命保険の役割も変わってきている。従来の保険は病・ケガや死亡、介護といったリスクに対応してきたが、長寿社会に入ると「生きる(長生きする)」ことそのものにまつわるリスクがクローズアップされるようになった。住友生命は、本業である保険事業を通じて健康寿命の延伸に貢献するため、健康という共有価値を創造するCSVプロジェクトを推進している。

同プロジェクトは3つの柱から構成される。中でも軸となるのが、健康に寄与する活動に取り組むことで保険料変動や特典などのメリットを得られ、健康増進活動へ取り組むモチベーションを高めることができる健康増進型保険“住友生命「Vitality」”の提供だ。南アフリカのディスカバリー社が開発し、世界24カ国・地域の2000万人(2020年4月時点)に提供されているVitality健康プログラムを生命保険に組み込んだ商品で、同社は日本における唯一の取扱保険会社として、2018年からサービス展開している。発売から約2年での累計販売件数は57万件(2021年1月時点)に達しており、今後のさらなる普及に力を入れていくとしている。

2つ目の柱は、社会に対する健康増進の働きかけだ。2017年、創業110周年の記念事業として、自治体や健康に関連する財団、研究者、アスリート等とパートナーシップを結び、地域に運動の機会を提供する取り組み「スミセイ“Vitality Action”」をスタートした。全国でスポーツイベントを開催するほか、講演会開催や啓発冊子配布などにより、健康増進に関する理解促進も図っている。

たいせつな人と一緒に運動することで「もっと健康に、そして幸せに」という想いがこめられたスミセイ“Vitality Action”。親子で一緒に運動できるイベントや、大切な人と走るランイベントを日本全国110カ所で行うことを目指している。

そして3つ目が、健康経営の推進である。顧客や社会に健康という価値を提供するには、まず職員自身が健康でなければ説得力を持たない。同社は「住友生命グループ健康経営宣言」に基づき、職員一人ひとりが健康維持と増進活動に主体的に取り組めるよう、イベント開催など運動を促す機会の提供、スニーカー通勤の奨励、さらには働き方改革なども通じて、多彩なサポートを積極的に行っている。

本業という観点に立てば、やはり“住友生命「Vitality」”の加入促進が主要目的となる。そこにCSR的要素の濃い他の2つの取り組みを加え、3つの柱が相互に関連することで立体的な事業を実現。加入者増だけでなく、Vitality加入者の84%から「生活の質が高まった」との声が寄せられる結果につながっている。健康増進への満足感をもたらす成果の継続が、大目標である日本の健康寿命延伸への貢献になる、というのが同社の考えだ。さらに、ディスカバリー社や世界各国の「Vitality」パートナーと共同で、2025年までに世界の1億人の活動量を20%アップさせることを宣誓しており、国内に限らない世界全体の健康への貢献も視野に入れている。

※住友生命によるアンケート調査結果(回答数15,702 住友生命職員除く)

※住友生命によるアンケート調査結果(回答数15,702 住友生命職員除く)

NEC

病院運営改革と患者の早期社会復帰に向けてAI技術を積極活用

少子高齢化が進む中、医療にまつわる多様な社会課題が顕在化している。例えば患者の入院が長期化して社会復帰が遅れれば、医療費が増大するとともに、医療従事者の業務負担も必然的に増す。医療の質を向上させながら、患者の早期社会復帰を実現し、かつ医療従事者の負担も軽減していくことは重要なテーマとなる。また、人材不足・財源不足から病院の持続的経営が大きな課題となっており、病院運営の改革も喫緊のテーマだ。

医療現場で大きな負担となっている記録業務の負荷を軽減するために記録業務の音声入力にNECのAI技術を適用した音声認識を活用。KNIの実証では、看護師が1人当たり1日約1時間かかっていた看護記録業務の58%を削減することができた。

社会課題を起点とした事業展開に力を入れる日本電気(NEC)は、これらのテーマに対応するため、AI技術を活用した取り組みを進めている。2017年、高度なICTを活用したデジタルホスピタルの実現を推進する東京都八王子市の医療法人社団KNIと、医療・社会改革に向けて同社の最先端AI技術群「NEC the WISE」を活用する実証を共同で開始した。

その一つが、入院患者の錯乱や幻覚といった様々な不穏行動の予兆だ。KNIの電子カルテを分析したところ、入院患者の約34%で不穏行動が確認され、不穏行動を起こした患者は退院が他の患者より平均で約19日遅れることが分かった。そこで患者のデータを収集し、AIで抽出・解析。患者の不穏行動の予兆を40分前までに71%の精度で検知した。これにより不穏行動への早期対応を可能とし、入院長期化の回避につなげるとともに、対応する医療従事者の業務負荷低減にも役立てられる。

また、患者の入院時の電子カルテデータを基に、自宅、回復期病院、慢性期病院といった退院先を予測。実際に84%の精度で退院先を予測した。この予測を活用すれば退院・転院の調整を早い段階に始めることができ、患者の社会復帰をサポートできるのはもちろん、病院運営の視点からは空きベッドの把握で新たな患者の受け入れ促進にも活用できる。

電子カルテのデータを基に、誤嚥性肺炎のハイリスク患者を抽出。情報は毎日更新される。

2018年からはKNIとの共創をさらに深化させ、看護部門の業務効率化と負担軽減を目的に、AIによる誤嚥性肺炎のリスクが高い患者の早期抽出、発話情報の分類を基にした看護記録の質向上・効率化を実証し、それぞれで高い効果を確認している。また、2019年にはKNIの北原リハビリテーション病院で、AIを活用したリハビリ計画作成の技術実証も行った。経験の浅いスタッフによるリハビリ計画作成業務の質をベテランスタッフと同程度まで向上させるとともに、計画作成に要する時間の約60%短縮に成功している。NECは今後も、AI技術を生かして病院運営改革と患者・医療従事者双方の課題解決に貢献し、SDGs達成に向けた取り組みとしても定義していく考えだ。

住友ファーマ

iPS細胞の技術をベースにした新しい治療法で、世界の人々の健康に貢献することを目指す

2018年3月、大阪府吹田市の総合研究所内に竣工した再生・細胞医薬製造プラント「SMaRT」(スマート)。iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初である。

すべての人が健康で豊かな生活を送れるようにすることは、持続可能な社会を実現するための重要な要素である。大日本住友製薬は、アンメット・メディカル・ニーズ(まだ治療法が見つかっておらず医療ニーズの高い分野)に重点を置き、日本、北米、中国というグローバル体制で人々の健康に貢献する新薬の研究開発を進めている。同社が研究重点領域として選んだのは、精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬分野の三つである。

三つの研究重点領域

このうち、同社が伝統的に強みを持つのが精神神経領域だ。中でも、2011年にグローバル開発に成功して発売された非定型抗精神病薬「ラツーダ」は、北米だけで年商1900億円の主力製品である。当初の適応症は統合失調症のみだったが、双極Ⅰ型障がいうつが適応症に加わることで大きく成長してきた。日本では、2020年度内の上市を目指している。

また、近年、大きな注目を浴びているのが再生・細胞医薬分野だ。以前は、神経細胞は再生しないというのが常識だったが、その常識を打ち破るべく、同社は1990年ごろから研究を続けてきた。現在では、ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授が所長を務めている京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、理化学研究所などとの連携の下で研究・開発を進めており、iPS細胞を使用した再生・細胞医薬分野では、同社が世界のリーディングカンパニーとなっている。

再生・細胞医薬分野の開発プロジェクトの中でも、最も取り組みが進んでいるプロジェクトがパーキンソン病治療薬だ。iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を使った医師主導治験が始まっており、2022年度の上市を目指している。加齢黄斑変性、網膜色素変性や脊髄損傷に対しても、iPS細胞由来の細胞を移植することで、失明した人に光が戻ったり、半身不随になった人が動けるようになったりと、従来の方法では治療効果が期待できなかった人々にとって画期的な効果が期待されている。

同社は、現行プロジェクトとして患者以外の健常人の「他家細胞」から培養したiPS細胞をベースに、神経、眼科系への応用を推進しているが、ゆくゆくは患者自身の「自家細胞」からiPS細胞を培養して、複雑で細胞数も多い臓器を再生させることを視野に入れている。次世代再生医療の現場では、病気などで機能を失った腎臓などの臓器の一部を新しい臓器に取り換えるという治療が当たり前になっているかもしれない。

「SMaRT」内に設置された安全キャビネットでの作業風景。iPS細胞から再生・細胞医薬品を製造する過程の一つに当たる。

⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。
記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。

(⼤⽇本住友製薬株式会社は、2022年4⽉に社名を住友ファーマ株式会社に変更しました。記事中の社名、人物の所属・肩書は掲載当時のものです。)

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