京都に本社を構える日新電機では、2014年より京都市と協働し、本社工場の敷地内で「生物多様性」に配慮した緑化の取り組みを行ってきた。この取り組みをさらに進化させたのが、2019年に新設された「日新アカデミー研修センター」の敷地内で実施されている「雨庭」プロジェクトだ。
雨庭とは、建物の屋根やアスファルトに降った雨水を一時的にタンクなどに取り込み、時間をかけて地中に浸透させていく仕組みを持つ庭のこと。雨水が一気に下水道に流れ出すことを防ぐことができるため、近年、頻発している「ゲリラ豪雨」による河川氾濫リスクへの対処法として注目されている。さらに、雨庭によって都市部に「湿地」をつくり出すことで、絶滅が危惧されている動植物への避難場所を提供することにもつながるという。
社会インフラを支える事業の担い手として、もとよりSDGsと理念を同じくしている日新電機では、来年度から始動する新たな中長期計画でも本格的にSDGsの考え方を組み込む考えだ。また、今年度内に2030年度に向けた温室効果ガスの削減目標について、「SBTイニシアチブ(SBTi:Science Based Targets Initiative)」の認定取得を目指しており、環境保全活動にも積極的に取り組んでいる。「雨庭」プロジェクトも、こうした取り組みの一環といえる。
新研修センターの雨庭では、一般歩道に面した部分に水路を含んだ区画を設けている。地下に設置された貯水タンクから、約3トンの水を約7日間かけてポンプで循環させて水景をつくりだし、水をじっくり浸透・蒸発させる仕組みだ。このポンプには、太陽光発電による電気を利用している。
本格的な雨庭機能を備えた大規模な緑地を実現するには、上記のような水循環システムの構築のほか、土地を整備する段階で砂利層を形成したり、透水管を設置したりする必要がある。企業の施設において、設計段階から雨庭の構想を取り入れたプロジェクトは全国的にもあまり例がなく、日新電機の取り組みは、今後の雨庭普及に重要なデータを提供するものとして期待されている。
本社工場の敷地から移植してきた希少植物フタバアオイ、ヒオウギ、キクタニギクなどが雨庭にしっかり根付いて花を咲かせている。カマキリなどの虫も自然と集う。
施工から1年余りが経過した今も、京都先端科学大学の協力のもと、植生のモニタリングが継続されており、様々な知見が集まりつつある。雨庭を維持するにあたってのコストや労力に関わるデータは、今後雨庭づくりに取り組もうとする企業や自治体にとっても大いに参考になるだろう。季節によっては雑草が大量発生するなど、想定を超えたメンテナンス作業も発生しているものの、持続的な展開は十分に可能だとの手応えを得ている。
水路で鳥が水浴びをしていたり、蝶たちが戻ってきたりと、街中では久しく見ることのできなかった風景を前に、社員からも「癒やされる」という声が寄せられている。近隣に住むファミリーが、緑地の前で立ち止まって会話している光景もおなじみになった。今後は、地域全体としての環境意識の向上に貢献すべく、勉強会なども積極的に企画していく考えだ。