テーマ7
SDGsと住友「新しい働き方」

 ワンポイント解説
新型コロナウイルスによって働き方が急速に変わる中で、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」が一段と重要になっています。企業の持続可能性を支える様々な非財務の資本において、人的資本が特に重要であることは言うまでもありません。今後、日本の人口減少が加速し、人手不足がさらに深刻な社会課題になることが確実な中で、企業は人的資本を確保するために、働きがいの創出と事業の継続を両立させるという、難しい舵取りを迫られています。SDGsの目標8のキーワードであるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい雇用)が出てくるのがターゲット8.5であり、「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用およびディーセント・ワーク、ならびに同一労働同一賃金を達成する」とあります。働きがいのある人間らしい雇用の実現のためには、仕事の体力的負担を減らすことや、AIの活用による生産性の向上が欠かせません。
そのような状況の中で、日本総合研究所が提供する、農業者に寄り添う自律多機能型ロボットやSCSKのお客様の質問にAIが自動回答するサービスは、ディーセント・ワークの実現に貢献するサービスとして期待されます。新型コロナウイルスや気候変動、日本における人口減少などの深刻な社会課題とSDGsの目標8は結び付いており、目標8の達成に貢献するサービスはビジネスの機会としても大きな可能性を秘めています。

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

日本総合研究所

農業者に寄り添う自律多機能型農業ロボット

自律稼働・自動追従、監視・防除、画像取得、情報計測、通信機能などが備えることを想定した試作機。

日本の農業は、就農人口の減少、耕作放棄地の増加といった深刻な課題に直面している。この状況をピンチではなくむしろ「チャンス」と捉え、高付加価値型の“儲かる農業”を目指して取り組みを始めたのが日本総合研究所だ。

同社は「農業者に寄り添うこと」をコンセプトとして、収穫、運搬、除草といった体力的負担の大きな作業の支援を目的とする自律多機能型農業ロボット「DONKEY」を考案。慶應義塾大学と共同研究を実施した。2017年11月には、同大学や各種機器メーカー、ファイナンス、商社、中山間地域の農業課題を抱える栃木県茂木町などが参加する開発コンソーシアムを設立した。

栃木県茂木町の畑で行われたコンセプト検証の様子。DONKEYは人が歩く速度で自動追従し、農作業を手助けする。まさにロバ(DONKEY)のようなイメージだ。

農業用ロボットはすでに実用化されているものもあるが、高価かつ単機能のものが多い。ある作物の収穫に特化したロボットは、その収穫期が終わると倉庫で眠ることとなり、農業者にとっては年間の稼働率が低いため「高い買い物」となりかねない。

DONKEYのコンセプトはベースモジュール(本体)にアタッチメントを装着することにより、様々な作業を可能とする、というものだ。ベースモジュールを提供し、アタッチメントを交換することで、除草、種まき、運搬、収穫、鳥獣害対策、圃場(ほじょう)整備・管理など多様な用途、かつ様々な作物で活用可能な多機能性を実現する。この仕組みであれば年間を通じての稼働率が飛躍的に上がり、農業者の導入メリットも大きくなる。まさに農業者に寄り添った発想といえるだろう。

また、地元の農業関係者はもちろん、町工場、中小企業、学生など様々なプレイヤーがアタッチメントや拡張機能の開発・製作に参加すれば、農業にとどまらず地域全体の活性化にもつなげられる。

農作業に関わる各種データを蓄積することで、将来的には収穫予測、生産性改善、ベテランから若手へ継承すべきノウハウの構築などにも活用することが可能だ。

開発コンソーシアムは2018年3月末で終了。4月からは茂木町でDONKEYの農業者へのテスト導入を開始し、農業者のフィードバックを得て改良を重ねた。

大きな可能性を秘めたDONKEYの考案をきっかけに、同社は社会の諸課題を先取りし、日本を活気づける事業に今後も取り組んでいく。

なお、2020年3月に開発コンソーシアムに参加していた企業など5社の共同出資により株式会社DONKEYが設立された。DONKEYの企画を参考に小型農業ロボットの開発を進め販売やサービスを手掛け、農業における労働力不足や収益性の低さという課題に対し、労働負担の軽減と効率化を実現していく。

本体の縦横サイズは約60cm×40cm。狭い場所でも導入が可能だ。用途に応じたアタッチメントを取り付けることで、除草、運搬、収穫など、様々な用途に活用することができる。多機能性があるため、多品種少量生産を行う農業者には大きなメリットがある。

SCSK

お客様の質問にAIが自動回答

SCSKのAI対話型エージェント「Desse(デッセ)」は、企業のカスタマーサポートやヘルプデスク業務を代行するシステムとして注目を浴びている。

企業には、お客様のお問い合わせに対応するカスタマーサポートやヘルプデスク業務が欠かせない。しかし、そこに充てられる人的リソースもコストも限られている。よくある質問をホームページにFAQのような形で掲載しても、なかなか見てもらえない──。

そんな企業の悩みを解決しようとSCSKが開発したのが、AI対話型エージェント「Desse(デッセ)」だ。

自社のホームページ上に、窓口となるキャラクターを置いておき、それを通じてお客様からの問い合わせに自動的に回答するシステムだ。「チャット」のように、インターネットを使ってテキストでリアルタイムにコミュニケーションを行うことで、お客様は対話を通じて容易に困りごとを解決することができる。

その特長は、Desseは話し言葉のような自然な文章を理解し、知識データベースとして用意された想定問答から関連性の高い内容を自動的に判断することができること。これは文章を自動的に翻訳する「機械翻訳」の延長線上にある技術で、SCSKが長年、研究を続けている分野であり、極めて信頼性が高い。

Desseはすでに多くの企業で活躍している。とりわけ力を発揮しているのが、コールセンター業務の負荷軽減だ。コールセンターに問い合わせの電話が来ると、当然その対応に人的リソースを割かなければならないが、Desseを導入することで、お客様が電話をかける以前に困りごとを解消できるチャンスが増え、コールセンターにかかってくる電話の本数を減らすことができる。ある企業では、電話件数をほぼ半減できた事例もある。

もう一つのDesseの強みは、運用が簡単なことだ。

例えば回答の精度を上げるために想定問答のパターンを増やす場合。本来はプログラムの知識がなければできないところだが、Desseは表計算ソフトに質問と回答をテキストで入力し、そのファイルをサーバーにアップロードするだけで済む。

質問応答エンジンが多言語対応している点も特徴。これはDesseが機械翻訳技術から発展したものであることによる。現在は日本語をはじめ、英語、中国語(3言語)、韓国語、タイ語の7言語に対応している。さらに、質問と回答のやり取りの中で顧客データを効率的に集めることができ、マーケティングやプロモーションへの活用も可能になる。

たとえ業務の一部であっても機械に任せられれば、その分、人的リソースを他の業務に充てることができる。Desseのような気軽に導入できるシステムを取り入れることで、企業はAI活用の未来像を描くこともできるだろう。

DesseはSCSK独自開発の質問応答エンジン*を搭載し、お客様がテキストで打ち込んだ、話し言葉のような自然な文章を理解することができる。似たような意味を持つ単語の解釈や表現の違いも把握が可能。知識データベース(想定問答)の中から最適なものを選んで自動的に回答する。
*独自の意味的類似度計算(特許第6789426号)

PageTop