住友と共創 ~ビジョンを描く~

住友重機械工業

「やさしいミライの学校」で人を育て未来をつくる

「こんな未来があったらいいな」と考えて、子どもたちが工作で未来を形にする――。そんな体験ができる小学生向けのワークショップ「やさしいミライの学校」が2024年9月、愛媛県新居浜市にある愛媛県総合科学博物館で開催された。主催したのは、130年以上前からものづくりに携わってきた住友重機械工業だ。新居浜は、同社創業の地でもある。

ワークショップは2時間半で、①「やさしいミライ」について考えるために人と社会が抱える課題や利用できる技術を学ぶ講義、➁カードを使って「こんな未来を実現したい」と思うことを話し合うグループディスカッション、③アイデアを工作で形にする実技、④工作した作品の発表――という4部構成だ。

グループディスカッションでは、子どもたちの議論を促すためのカードが用意されている。カードには、街の中心から遠くに住んでいることで困っている人や悩みごとを抱えた店の人など「困りごとがありそうな街の人たち」や、「困りごとを解決できそうな技術や道具」が描かれている。技術や道具は、ドローンやセンサー、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などだ。これらのカードは、テクノロジーとアイデアを組み合わせた造語で「テクノディアカード」と呼ばれている。

テクノディアカードを使ったグループディスカッションの様子
テクノディアカードを使ったグループディスカッションの様子(提供:住友重機械工業)

工作で使用できる材料は、紙コップ、グラス、ボール、紙製の箱、木製歯車、靴、葉っぱ、カラーセロファンなど50種類ほど。自由な発想でアイデアを具現化できるように配慮された豊富な材料が用意されている。

子どもたちは、悩んだり疑問が生じたりした場合はその解決方法をAIに相談することもできる。各グループのそばに待機しているスタッフは、子どもたちから相談があった際には、タブレット端末で生成AIに質問を投げかけて、その結果を子どもたちにフィードバックする役割も担っている。

“ものづくりの楽しさ”を実感できる場をSTEAM教育で具現化

このワークショップは、理数教育に創造性教育を組み合わせた「STEAM教育」を具現化したものだ。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域の頭文字を採ったもので、複数の領域を統合的に学習する教育体系である。

起源は1990年代に科学技術人材の育成を目的として米国で始まったSTEM教育だ。これに、芸術・リベラルアーツ(Arts)の領域が加えられたものがSTEAM教育で、創造的な発想が可能になるという考えに基づいている。

近年、小中学校でプログラミングの授業が必修化されるなど、理系志向が重んじられるようになってきた。こうした授業で重要なのは“考える力”である。実社会に置き換えれば、問題の根底にどういう原因があるのか、どうしたらその問題を解決し便利でやさしい世の中になるのかを考える力が求められる。

「やさしいミライの学校」では、STEAM教育によって、“考える力”を養い、工作を通してものづくりを実体験することで、わくわくしながら“ものづくりの楽しさ”を子どもたちに実感してもらう狙いである。

そのため授業内容にこだわった。子ども向けワークショップなどの開発を手掛ける団体であるCANVAS(運営:ラフ&ピース マザー)の力を借りて、前述した構成のプログラムに仕立てたのである。

2023年から開催してきた「やさしいミライの学校」。大人には思いつかないような斬新なアイデアが続々と生まれている。例えば2023年には、運動靴とプロペラによって「空飛ぶ靴」が“発明”された。2024年には動物アレルギーの人に動物とコミュニケーションを深めてもらうための、「仮想現実(VR)×触感再現技術」が“開発”されている。

様々な材料を使って工作をする子どもたち
様々な材料を使って工作をする子どもたち(提供:住友重機械工業)

地域社会に貢献し、人を育て未来をつくる

住友重機械工業が叶えたい未来は、より多くの子どもたちに“ものづくりの楽しさ”を知ってもらうことで、人と社会をやさしさで満たせるような発想で、ものづくりを発展させていくことである。

そのためには、地域社会にSTEAM教育を浸透させていくことが重要だと同社では考えている。STEAM教育のように、“考える力”を養う教育機会は、社会全体で見るとまだ十分なものとはいえない。その先導役として、「やさしいミライの学校」を開校したというわけだ。

2023年、2024年とまずは新居浜市からスタートしたこの取り組みには、延べ百数十人の小学生が参加した。今後、他の地域での開催も検討されている。地域社会に貢献しながら、人を育てて未来をつくる――ものづくり企業の挑戦は続く。

「やさしいミライの学校」を受講した子どもたち
「やさしいミライの学校」(2024年9月開催)を受講した子どもたち(提供:住友重機械工業)
 ジャーナリスト堀純一郎が住友のDNAを探る
住友重機械工業は1888年、住友グループの祖業である別子銅山(愛媛県新居浜市)の工作方として創業した。働く人たちの負担を軽減するために、鉱山用の機械や器具を製作・修理する事業から始まった。以来、“ものづくりのプロフェッショナル”として、社会と産業の発展と共に歩んできた。まさに住友グループの源流を“ものづくり”という立場で受け継いできた歴史を持つ。
ものづくりには、製造する前に“考える力”が必要だ。同社は、小惑星「イトカワ」から岩石の微粒子をサンプルとして持ち帰ったことで知られる小惑星探査機「はやぶさ」のサンプル採取機構を開発した会社でもある。サンプルを取り込む際の筒状の「ホーン」には、伸縮自在のバネ仕掛けの蛇腹構造が採用されているが、これは駅で売られていた「新居浜太鼓祭り」のお土産用ちょうちんをヒントにしたものだという。創意工夫があったからこそ画期的な仕組みを生み出すことができたというわけだ。
「こだわりの心と、共に先を見据える力で、人と社会を優しさで満たします」――これが同社のパーパス(存在意義)だ。先を見据える力で、ものづくりの世界で人と社会に貢献する住友重機械工業。その事業精神は「やさしいミライの学校」で次世代に引き継がれていく。ここで学んだ子どもたちが、これをきっかけとして“考える力”を身に付けるとともに、ものづくりの楽しさを実感し、未来を切り開く人材として育っていくことを願ってやまない。
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