2024年1月、大阪府泉佐野市の郷之池(農業用ため池)にある水上太陽光発電所が運転を開始した。発電した電力は泉佐野電力を通じて泉佐野市の公共施設に送電される。この発電所を建設して売電事業を始めたのが三井住友建設である。
地球温暖化を防止するために、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスを発生させないクリーンなエネルギーとして再生可能エネルギー(太陽光、水力、風力、地熱など)の活用が叫ばれて久しい。複数の方式がある中で、三井住友建設は「水上太陽光発電」に着目した。
同社は2050年に向けたロードマップの中で「2030年までに実質的にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)を実現する」という長期ビジョンを掲げている。具体的には、①再生可能エネルギー発電事業に取り組み売電事業を推進する、➁顧客や自治体のカーボンニュートラルへの取り組みを推進する事業への参画を目指す――というものだ。同社にとっては売電事業だが、企業の“脱炭素経営”を支援し、かつ“地域に貢献”することを狙っている。
このビジョンを実現するために、2022年に事業創生本部を創設し、再生可能エネルギー推進部が中心となって事業化したのが「水上太陽光発電」だ。
特に注力しているのが「ため池」の活用である。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「再生可能エネルギー技術白書」(2013年)によると、湖沼・ダム水面などの水上空間における太陽光発電能力は約38GW(ギガワット)で、太陽光発電能力としては耕作地に次ぐ規模となっている。ところが、全国でいまだに施工実績は多くない。そこで、水上太陽光発電の潜在能力に目を付けたというわけだ。各地の支店とタッグを組んで展開できるのも強みだ。
しかも陸上に比べて、①切土・盛土造成工事が不要、➁杭基礎や地盤改良が不要、③森林伐採がない――といった環境保全という点で多くの長所がある。そのため施工性に優れており、着工から完成までが半年以内といった短期間での設置が可能だ。さらに、水面の冷却効果により太陽光パネルの温度上昇を抑えることができるため、陸上に比べて高効率の発電を実現できる。
冒頭に取り上げた事例は、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)という契約形態で、近年注目を浴びている事業モデルである。再生可能エネルギー発電事業者(事例では三井住友建設)が発電した電力を電力需要家(事例では泉佐野電力)が長期(多くの場合は20年以上)にわたって購入する契約形態だ。需要家へ売電する際の電線を発電事業者のものを使わないためオフサイトPPAと呼称されている。
一方、発電事業者の電線を使って需要家に供給するオンサイトPPAと呼ばれる事業もある。三井住友建設は2024年2月、熊本県・大津町にある民間企業の工場敷地内の調整池で水上太陽光発電の運転を開始した。
従来、再生可能エネルギーの普及を目的に2012年から国が始めたFIT(固定価格買取制度)があるが、買取価格が下がり発電事業として事業性が低下している。こうした背景もあり、三井住友建設はFITからPPAによる売電に事業をシフトさせている。
最も重要なのが、地域住民の理解と合意形成である。陸上での太陽光発電では、前述したような環境破壊を引き起こすといった負のイメージがある。そのため、住民説明会を通して、水上発電の長所と安全性を懇切丁寧に説明していくことが不可欠だ。
暴風や豪雨の際の安全対策もその1つ。台風や大雨の際でも太陽光パネルが沈まないようにするために発砲スチロールを充填した専用のフロート(浮力材)として「PuKaTTo(プカット)」を自社開発したほか、流されないようにするための万全な係留の仕組みを取り入れている。係留技術は、海や川での建造物の建設で培ってきた建設会社ならではの経験を生かしたものだ。
動植物への影響についても、環境省や農林水産省のガイドラインに則ってモニタリングしている。定点カメラを設置しており、設備を監視するだけではなく、野鳥の飛来や在来生物の生育の観測を継続している。2020年にFIT事業として運転を開始した香川県の女井間池水上太陽光発電所における環境モニタリングの結果、動植物に悪影響を与えることなく自然環境を維持できていることを確認済みである。
さらに、自然災害によって停電が発生した際に、住民がスマートフォンやパソコンなどを充電できる非常用電源を発電所に設ける取り組みも始めている。住民の理解を得るためには、こうしたきめ細かい配慮が欠かせない。
今後は、技術開発を促進することで大規模ダム、強風地域や離島・海洋地域、さらに降雪地帯など、水上太陽光発電の適地を全国に増やしていく計画である。水上太陽光発電を基軸として、「地域に根差した安全・安心で持続可能な社会」の実現を目指している。