住友と共創 ~ビジョンを描く~

住友ゴム工業

“発想の転換”で全天候対応の万能タイヤを実用化
環境負荷も軽減

近年、地球温暖化が猛暑、豪雨、豪雪に拍車をかけており、日々の天気予報が気にならない人は少なくないだろう。ましてやドライブに出かける際はなおさらそうだ。例えば、雪が降るのかはっきりしない天気予報のときに、スタッドレスタイヤに交換すべきかどうか迷ったり、交換がおっくうになったりした経験はないだろうか。

そうした悩みを解決してくれるのが、住友ゴム工業が開発したDUNLOP(ダンロップ)「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」(2024年10月発売)だ。同社が他社に先駆けて開発したオールシーズン、全天候に対応できる万能タイヤである。

シンクロウェザーは、水や温度に反応し路面状態に合わせてゴム自ら性質が変化する独自の新技術「アクティブトレッド(ACTIVE TREAD)」を組み込むことで、ゴムの軟らかさが環境によってコントロールされる。その結果、降雨・降雪など様々な天候でも安心してドライブすることができる。

水と温度を味方に

アクティブトレッド技術には、ゴムの中に路面状態の変化に反応する2つの「スイッチ」を組み込んでいる。1つが「水スイッチ」である。雨の日にタイヤが水に触れて「水スイッチ」が働くことで、タイヤ表面のゴムが軟らかくなる。それにより、路面をしっかりつかむグリップ力が向上する。技術的には、ゴム内部の化学結合の一部を「共有結合」から水で脱着できる「イオン結合」に置き換えることで実現している。

ゴムの性質を変える新発想の性能スイッチの概念
ゴムの性質を変える新発想の性能スイッチの概念(出典:住友ゴム工業)

もう1つが「温度スイッチ」である。低温になると「温度スイッチ」が働くことで、氷上路面でも軟らかさを維持しグリップ力が低下しないゴムに変質する技術だ。一般的に、ゴムは冷えると硬くなる。低温で軟らかくするのは至難の業だ。この難題に挑んでいたところ、低温で高温よりも軟らかくなる高分子材料を研究している大学研究者を探し当てた。そこで、その技術に着目し共同研究に着手し、材料への考え方に幅ができた。「温度スイッチ」という画期的な技術を実用化することができたのも考え方に幅ができたからといえる。まさに、発想の転換があって実現できた技術だ。

こうして、雨の日であっても雪の日であっても、ゴムが環境に応じて適切に変化することで路面をしっかりとつかむことができる全天候対応の万能タイヤを開発したのである。

1908年に米フォードが世界で初めてクルマの量産を開始してから100年以上を経た現在、電気自動車、さらに自動運転の時代を迎えクルマの技術進化は著しい。それに呼応してタイヤも進化しているのである。

実は、アクティブトレッドという言葉は、2017年に同社が打ち出した「スマートタイヤコンセプト」という概念の中に登場している。クルマの電動化が進み自動運転の時代になった際に、雨が降っても雪が降っても、いかにして安全を担保するタイヤを提供できるかということから、アクティブトレッドというコンセプトを打ち出した。

コンセプトは固まったものの、具体的にどうやったら実現できるかは未知数で、開発の現場では試行錯誤が続いていた。かんかんがくがくの議論の結果、前述した発想の転換にたどり着いたのである。

スマートタイヤコンセプトの概念図
スマートタイヤコンセプトの概念図(出典:住友ゴム工業)

安全性、利便性、タイパが向上し、タイヤ廃棄量削減にも貢献

アクティブトレッド技術を採用したシンクロウェザーは、3つの観点で顧客に恩恵をもたらす。1つが安全性だ。前述したように、雨の日、雪の日であってもしっかりと路面にゴムがグリップすることで、天気を気にしない安全性を与える。

2つめが利便性である。冒頭に例示したように、雨や雪などの天候が原因でタイヤ交換が面倒でちゅうちょしたり断念したりしていたドライブを気兼ねなく実行に移すことができるようになる。タイヤ交換の手間がなくなるため気持ちの上でも楽になり、人間の行動が変わる。

3つめがタイムパフォーマンス(タイパ)の向上だ。自分でタイヤを交換する際の時間を省くことができるほか、専門業者に交換の予約をしたり現地まで出向いたりする時間を削減できる。その結果、時間を無駄にせずに済む。

こうした恩恵をもたらすシンクロウェザーは、環境にも優しい。特性の異なるタイヤを複数使うのに比べた場合、1つの万能タイヤを使うことは、ひいてはタイヤの廃棄量を減らし環境負荷の軽減に寄与することにもつながるのである。

アクティブトレッド技術の開発は、住友ゴム工業が2020年に策定した企業理念体系「Our Philosophy」に則っている。安全とは何かを追求し「どこでも同じグリップ」を実現するという高い目標に挑戦し、スイッチ技術という発想で期待を超える価値を創造してきた。

技術的な難題に対しては大学/研究機関やサプライヤーとの信頼関係を基にしてオープンイノベーションにより解決した。安全性の確保をはじめとした恩恵やタイヤの廃棄量削減は「自利利他公私一如」(常に「社会への報恩」を考え、公益との調和を図る経営姿勢であること)という住友の事業精神が背景にある。

今後は、現状の水・温度に反応するスイッチ技術に対して、その応答速度や応答量を制御していくほか、水・温度以外の第3、第4のスイッチ技術を構築するなど、アクティブトレッド技術をさらに進化させていく計画である。住友の事業精神を礎に、「“最高の安心とヨロコビ”を与えられるタイヤ」を目指してさらなる開発に邁進する。

アクティブトレッドを生み出した背景にある住友の事業精神
アクティブトレッドを生み出した背景にある住友の事業精神・Our Philosophy(出典:住友ゴム工業)
 ジャーナリスト堀純一郎が住友のDNAを探る
住友ゴム工業の歴史は、1909年に英ダンロップが日本にゴム工場を設置したことにさかのぼる。住友電工、住友商事が資本参加したのが1960年であり、約400年の歴史を持つ住友グループの中では新しい会社の1つといえよう。住友グループとなって六十数年ではあるが、実はその当時からの「住友の事業精神」が色濃く脈々と受け継がれている。
統合報告書のカバーストーリーには、「住友事業精神の源流」と企業理念体系「Our Philosophy」が明示されている。住友事業精神の源流については、「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利する事業でなければならぬ」という社会に対する強い使命感が込められており、住友ゴムグループの企業理念の基盤となっている。
「Our Philosophy」の中でも、住友事業精神として「進取の精神」「事業は人なり」「信用と確実」に加えて、「自利利他公私一如」が記されている。アクティブトレッド技術の開発は、Our Philosophyや住友事業精神が浸透していることの表れである。
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