住友と共創 ~ビジョンを描く~

住友化学

“天然物由来製品”を活用して持続可能な社会を実現

「安全なものを食べて健康的に暮らしたい」――そういう生活を誰もが願っているに違いない。その一助となるべく、住友化学はグループを挙げて“健康・農業”という分野に挑んでいる。健康で衛生的な生活の実現、食料の増産や農作業の効率化を掲げ、有機合成化学、生物学、製剤技術などを基盤に、新しい農薬、機能性肥料、栽培技術の開発、より効果が高く優れた家庭用・業務用殺虫剤の開発などを手掛けている。

住友化学がグループを挙げて、天然物由来製品のブランディング活動で展開しているポスターの例

住友化学グループは、この健康・農業分野において「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)の推進」が今後一層重要になるとの認識のもと、従来の化学合成農薬に加えて、環境負荷の低い天然物由来の農薬や資材を広く世の中に提供している。この天然物由来製品の事業化を中心となって推進しているのが住友化学の健康・農業関連事業部門だ。当事業部門内の住友化学園芸、住化エンバイロメンタルサイエンス、住化テクノサービスの3社と協同しながらこの事業を社会に周知するために “天然物由来の有効成分を使用する製品”のブランディング活動に2023年から取り組んでいる。「世の中に、天然のPOWERを。」をスローガンに、新聞広告やデジタル広告、テレビコマーシャルなどを大々的に展開するとともに各社が販売する天然物由来製品には「Natural Products」という共通のシンボルマークを使用し、認知度の強化を図っている。天然物由来製品を広くアピールしビジネスを成長させるのが狙いだ。

各社が提供している天然物由来製品は農薬、家庭用・業務用殺虫剤、家庭園芸用資材などで、実に約30種類に及ぶ。

天然物由来製品に表示している共通のシンボルマーク「Natural Products」のロゴ

化学合成製品と天然物由来製品の両輪で

「環境再生型農業」は土壌の健康を修復・改善しつつ温室効果ガスの排出削減や生物多様性を維持・向上し、持続可能な農業を目指す新しい概念だ。今、「環境再生型農業」が求められている背景にはいくつかの「社会課題」がある。

その1つは急増する世界の人口を支えるために必要な食料をどのように安定的に供給していくことができるか、ということだ。国連人口基金(UNFPA)が2024年4月に発表した「世界人口白書2024」によると世界の人口は2024年に81億人を超えたが、国連経済社会局(UNDESA)人口部の推計では2050年には97億人に達するとみられている。今後、気候変動による耕作可能地の変化や水の不足が懸念される中で、いかに農作物の単位面積当たりの収量を増加させて食料を安定的に供給していくことができるか、というソリューションが求められている。

また、日本の農業においては農業の担い手が減少しているという現実がある。農林水産省が5年ごとに実施している調査「農林業センサス」によれば、2005年に224万人だった基幹的農業従事者(15歳以上の専業者人口)は2020年には136万人となった。2024年時点では100万人程度まで落ち込んでいるとみられている。しかも高齢化が進み、65歳以上が全体の7割を占めている。国内の人口が減少しているとはいえ、それ以上に生産者不足は深刻であり農業の一層の効率化が求められている。このような背景から、スマート農業の推進などの対策とともに、収量の向上につながるより高性能、かつ低毒性な化学合成による農薬などの農業用資材への期待は以前にも増して大きい。

もう1つの社会課題は、環境問題である。温室効果ガスの排出を削減し、環境汚染を減らし地球環境を守ることが地球規模で求められており、SDGs(持続可能な開発目標)の実現へ向けた社会の環境意識は高まっている。そのため、農業や園芸における病害虫防除から家庭での害虫駆除、衛生管理にいたるまで、様々な場面でより環境負荷が低い製品が求められるようになってきた。

住友化学グループでは、天然物由来などの微生物農薬、植物成長調整剤、根圏微生物資材などや、それらを用いて作物を病害虫から保護したり、作物の品質や収量を向上させたりするソリューションを“バイオラショナル(Biorational)”と定義して事業化したほか、植物からの天然物抽出技術を生かしたボタニカル製品(植物由来の殺虫成分を含む製品)を幅広く展開している。

「環境再生型農業」を推進していくためには、化学合成製品と天然物由来製品をうまく組み合わせて、両輪で支えていくことが重要である。これらのニーズに対して、これまで培ってきた化学合成技術だけでなくバイオラショナル技術・製品、ボタニカル製品などを組み合わせて対応できるのが、総合化学メーカーとしての住友化学グループの強みであり使命でもある。この取り組みは、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」で掲げている“新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を2050年までに50%削減する”という目標に合致している。

「Natural Products」の1つである殺虫殺菌剤「ベニカナチュラルスプレー」(住友化学園芸)と店頭でのプロモーション風景

食糧、健康・衛生、環境の3本柱で持続可能な社会に

住友化学健康・農業関連事業部門では長期ビジョンにおいて取り組むべき3つの分野を掲げている。1つが「食糧」である。食料増産、持続可能型農業、安心・安全な農作物の提供を通じて食料問題を解決する。2つめが「健康・衛生」である。例えばマラリアなど昆虫が媒介する感染症を防ぎ健康的で衛生的な生活を送れるような薬剤や製品を提供していく。3つめは「環境」である。家庭や社会で問題となっている害虫を駆除する薬剤や製品を提供することで生活環境やその質を改善する。同ビジョンではこれらの3つの分野で研究開発を推進し、他社と差別化を図ることができる新たなイノベーションと事業創造によって持続可能型製品事業を拡大することを企図している。

世界的には、「環境再生型農業」を推進することによって持続可能な社会を目指す動きが加速している。特にEUでは「Farm to Fork戦略(Farm to Fork Strategy)」を2020年に掲げ、農場から食卓までの持続可能な食料システムを目指している。日本では、前述した「みどりの食料システム戦略」において、生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現しようとしている。住友化学健康・農業関連事業部門が掲げる長期ビジョンの3本柱は、こうした世界的な潮流をとらえたものである。

 ジャーナリスト堀純一郎が住友のDNAを探る
住友化学レポート(統合報告書)には、“住友化学は、約400年の歴史を持つ「住友家」の事業を起源とし、現在もその事業経営の根本精神を継承しています”と記されている。事業精神は、住友家初代・住友政友(1585~1652年)が晩年にしたためた商いの心得である「文殊院旨意書」を源流とし、住友の銅事業を中心とする歴史の中で脈々と受け継がれ、深化を遂げてきた。
この歴史の中での銅事業の源流が「南蛮吹き」という当時最先端の精錬技術にあったように、技術を重んじ、新技術の開発にも果敢に取り組む経営姿勢が住友の事業発展の原動力となっている。
化学事業の観点では、銅山から発生する亜硫酸ガスによる公害をなくし、持続可能な社会を目指すというサステナビリティの精神が貫かれている。この精神が、約400年を経た現在、“天然物由来製品”の開発・事業化とそのブランディング活動に取り組んでいる住友化学グループの事業精神に宿っているのである。
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