たかぎりょうこの住友グループ探訪
東北住電精密
超硬工具「イゲタロイ®」製品である、超硬ドリルや鋼⼯具などを製造する
住友電工ハードメタルの主要拠点。福島県三春町に位置する。
スローガンは「人と共に発展 三春から世界に羽ばたく」。
超硬工具「イゲタロイ®」製品である、超硬ドリルや鋼⼯具などを製造する
住友電工ハードメタルの主要拠点。福島県三春町に位置する。
スローガンは「人と共に発展 三春から世界に羽ばたく」。
2017年5月に竣工。環境に配慮した設計となっており、敷地内には太陽光発電設備と風力発電を設置。構内で使用される電気の一部を賄っている。
郡山駅から車で約40分。福島市と会津若松市、いわき市のちょうど中央に位置する三春町に、東北住電精密がある。
「三春という土地の名前は、三つの春の印である“梅、桃、桜”が一度に咲くことからついたと言われているんですよ」。そう教えてくれたのは田中社長。この福島に、同社を設置するために尽力した人物の一人だ。
2011年の東日本大震災で、福島が受けた被害は計り知れない。同社はその福島を拠点として、東日本にサービス網を築くことを決めた。拠点を福島に決めたのはもちろんビジネス戦略上の理由もあったが、本拠地を西日本に置く親会社の住友電工ハードメタルが、1995年に経験した阪神・淡路大震災の影響も大きかった。震災からの復興は大事業であり、福島の力になりたいと考えた。こうして2016年4月に設立した同社は、2017年11月から工場を本格稼働。現在社員の約8割は福島の人が勤めている。世界では高品質の代名詞であるメード・イン・ジャパンの超硬工具が、ここで作られている。
国際競争力を保つために、東北住電精密では数々の工夫がされていた。1つ目は、考える人材の育成。日ごろから安全性の向上や効率化に向けた意識共有を徹底することで、従業員の気づきを促し、自主的に提案する環境をつくっている。そして、改善点はどんどん実践する。2つ目は機械の自動システム化。人間でなくてもできる作業は可能な限りロボットやコンピューターシステムを使って管理し、人間はそれらが間違いなく動けるよう指示し、補助する。3つ目はツールエンジニアリングセンター(通称TEC)によるノウハウの蓄積だ。TECとは、住友電工ハードメタルが全世界につくったツールエンジニアリングサービスの拠点で、具体的には顧客の技術レベルに応じた切削工具の使用法の研修、テストカット、技術相談などきめ細やかに対応している。
超硬合金で作られたドリル。
特に私が大興奮したのは、TECでの切削実演を目の前で見せてもらったときだ。まず、ホームセンターなどで売っているドリルで最も回転が速いものを使って鋼鉄に穴をあけるテストを見た。下穴をあけ、次にゆっくりと穴を掘り進めていく。
金属同士の摩擦で熱が発生するので、クーラントという冷却液を大量に吹き掛けていた。私は木材にしかドリルを使った経験がないので、あのドリルで鋼鉄に穴があけられるということだけでもびっくり! しかし、本当に驚くのはその後だった。今度は、ドリルを超硬合金ドリルに替えてみると……(え!? 瞬く間にドリルが鋼鉄に入っていく。本当にこれ、さっきと同じ鋼鉄?)。まるで消しゴムのような軟らかいものに穴をあけているみたい。目の前の光景が信じられなくて、削った直後の、鋼鉄の安全な部分に思わず触れてみた。やっぱり消しゴムじゃない。
しかも、一瞬で2つも穴があいている! さらに穴の表面も滑らかだ。ドリルの硬さが違うとこんなに差が出るんだ。金属それぞれに硬さは違うと頭では分かってはいても、どうしても金属は一様に硬いものだと思い込んでいた。そんな常識が一気に吹き飛んだ。
自動車用エンジンなどの穴あけに用いられる、超硬合金のドリル(左)。超硬合金のチップを取り付ける鋼工具(カッタ)。刃先のチップは各コーナー部分を交換して使用できる(右)。
次に訪ねたのは実際の超硬合金のドリルと、鋼工具(カッタ)を作っている製造現場だった。広々とした構内で目に入ったのは「止める・呼ぶ・待つ」の大きな標語。最新機器の安全対策によって作業現場の安全は確保されているが、それでもやはり削るという作業は大きな危険が伴うもの。
「生産より当然、安全が優先です」と言い切る田中社長の下で、入社前研修、そして入社後の定期的な安全教育が行われ、徹底されている。さらに、超硬合金は貴重なレアメタルを使用しているので、顧客先で廃品になったものは回収をしてリサイクルしている。人と環境を大切にすることで、コストを抑え世界での競争力につなげるすばらしい循環が、ここで起きている。
「人と共に発展 三春から世界に羽ばたく」という東北住電精密のスローガンの通り、“世界の三春”と呼ばれる日もそう遠くはないかもしれない。
60本の異なる形状の工具で、鋼工具(カッタ)のボディーを削り出すマシニングセンター。
システムの計画に従い、2台のロボットが連携して製品を組み立てていく。
鋼工具(カッタ)用の超硬合金のチップは種類が豊富!
取材に伺う前から、スタッフ一同「鋼を削るほど硬い物質とは、どういうものなんでしょうね?」と、期待で心を躍らせていました。
製造現場で実際に拝見した、穴あけ工具(ドリル)の素材は、まだサインペンほどのサイズにも関わらずズッシリと重く、鋼工具(カッタ)用の超硬合金のチップは、指先にちょこんと乗るほどの小ささでした。
特に印象深かったのは、鋼を削る速さです。また、鋼の丸棒を高速回転させ、その外周面をCBNチップで削る数秒間に散っていた火花も、美しい光景でした。
一瞬、薄い円盤のように見えて、「こんな形の火花は初めてです」とたかぎさんも目を見張っていました。
取材後、すっかり鋼工具(カッタ)の虜になったたかぎさんに、東北住電精密のみなさんから模型をいただきました。
「ふふふ、いいでしょう~」と満面に笑みを浮かべるたかぎさんに、「うわあ、いいなあ!」と、スタッフ一同の声が思わず揃ってしまいました。