つぼいひろきの住友グループ探訪
住友理工ホーステックス 本社/京都事業所
2008年、TRIホース販売株式会社として設立。
2016年以降、住友理工グループの産業用ホース事業の運営主体としてグローバルな展開を行っている。
2008年、TRIホース販売株式会社として設立。
2016年以降、住友理工グループの産業用ホース事業の運営主体としてグローバルな展開を行っている。
ホースといえば、庭の水まきや洗車に使うものというイメージが強い。だが、そんな家庭用ホースとは違い、産業用ホースの世界は実にダイナミック! 建設現場に生コンクリートを流し込むのに使ったり、トンネル工事で掘り出した土や汚泥水を外へ排出するのに使ったり、マグロを急速冷凍するための液体窒素を漁船に送ったりと、まさに縦横無尽の活躍ぶりだ。
今回訪れたのは、国内最大級の産業用ホース製造工場を京都府綾部市に構える住友理工ホーステックス。ここでは、大きく分けて「高圧ホース」と「搬送用ホース」の2タイプの産業用ホースが製造されている。
高圧ホースとは、油圧や水圧配管に使用されるホースのこと。建設や土木工事の現場でフォークリフトやパワーショベルなどを動かすのに欠かせない存在だ。一方の搬送用ホースはその名の通り、物を運ぶためのホース。冒頭でも挙げた生コンや土砂から食品まで、あらゆるものを搬送するのに使われる。
これほど豊富な用途があるのだから、ホースの種類も当然たくさんあるのだろう。素朴な疑問をぶつけてみると、少し困ったように顔を見合わせる住友理工ホーステックスの皆さん。「ものすごくありますよ。数えたことはありませんが……。高圧ホースの場合、圧力サイズといって圧力と外径の組み合わせだけでも100種類以上あります。さらに、建設機械や工作機械などの用途別に分かれるので、ホースの種類でいえば400~500種になるでしょう。加えて、用途に応じて口金を取り付けた完成品までをカウントすれば、何万……いえ、何十万種類とあるはずです」と話すのは、同社の蜷川広一社長だ。
これで驚いてはいけない。同社の強みは、住友理工グループが誇る「高分子材料技術」によって、材料となるゴムを自在に配合できること。強度を高めるにはカーボンブラック、柔軟性を出すにはオイルといった具合に、10種類以上もの材料を使って、顧客の細かいニーズに応じた最適の配合を実現しているのだ。そのバリエーションはまさに「無限」である。
想像をはるかに超える、ホースのバリエーションにぼうぜんとしつつ、工場へと向かうボク。住友理工ホーステックスがこの綾部に工場を構えるようになったのは2013年と比較的最近のことだが、決め手の一つになったのが、工場の建物だけでも7万1000m2という敷地の広さだった。
最初に案内されたのは、圧倒的なスケールを誇る高圧ホースの製造セクション。「ホースを作るときは、中心に“芯(マンドレル)”を入れます。重機メインで使われるような高圧ホースの場合、圧力に耐えられるように鉄のマンドレルを入れるのですが(搬送用ホースでは主に樹脂製のマンドレルが用いられる)、鉄だけに曲げることができないので、真っすぐに作るしかありません。以前は工場の広さの関係で、一度に20mのホースを作るのが限界だったのですが、綾部に製造拠点を移してからは60mのホースが作れるようになり、生産性が格段に向上しました」と説明するのは、同社取締役・京都事業所所長の伊香賀修治さん。60mもの長尺高圧ホースを作るには、その約3倍の長さの敷地が必要になる(下記コラム参照)。サッカーコートでいえば2面分に相当。これほどの規模の設備は、世界でもトップクラスだという。
ホースの基本構造は、内側がゴム、その周りをワイヤーや帆布などの補強層で覆い、さらに上からゴムをかぶせるというもの(左上図)。
高圧ホースの製造工程では、手前にストックされている鉄のマンドレルを奥の方へ送り込み、図上部から下部へマンドレルを移動させる過程でゴムを押し付け、さらにその先で補強層を同時に巻き、再びマンドレルを上部奥へ戻して外面ゴムを被覆する。その後、奥から手前に戻す際にゴムの加硫を行い、最後に手前で鉄のマンドレルを抜く。このため、ホースの長さの約3倍もの敷地が必要なのだ(右下図)。
高圧ホースのセクションの隣に広がるのは、搬送用ホースのセクションだ。ここでボクは不思議な光景に目を留めた。ゴムのホースの上に、従業員さんたちが「手で」補強材を巻き付けているのだ。高圧ホースの方では工程はすべて自動化されていたのに、一体なぜだろう?
「搬送用ホースはお客様のニーズが非常に多岐にわたるため、なかなか自動化できないんですよ。例えば10mのホースの中でこの部分だけ強度が欲しいとか、この部分だけ曲がりやすくしてほしいといったリクエストが多いんです。生コンクリートを吹き付けるためのホースにしても、日本では職人さんがホースの先端を持って作業するので、持つ部分は軽くしないといけないケースがあったりします。こうしたニーズにきめ細かく対応するには、この部分はもっと密に補強材を巻こうとか、この部分は材質を変えようといった“さじ加減”がカギになってきます。まさに、匠の世界なんですよ」
ボクの目の前では、従業員さんが斜め巻きのラッピングに取り組んでいた。隙間なくぴったりと、しかし重ならないように補強材を巻く高度な技だ。ホースの表面に段差ができないのが、人の手で巻くメリットだという。ホースというと、なんとなく荒っぽい使われ方をしているイメージがあったため、これほど繊細に、丁寧に作られているのは意外だった。
「むしろ、使用環境が過酷だからこそ、高性能・高品質なホースを提供していくのがわれわれの使命だと考えています。とりわけ高圧ホースは、建設現場でハードな使われ方をすることが多く、破損しがちです。いったんトラブルが起きると、工事が遅れたり、オイルが飛び散って環境汚染を引き起こしたりする可能性もあります。最悪の場合、人命に関わるような事故につながることもあり得る。それだけに、われわれのホースを使うことによって、世界中のインフラ整備の現場で安全・安心が保たれればと願っています」
完成品の高圧ホースを手に取ってみたところ、縁の下の力持ちにふさわしいタフネスぶりが伝わってくる。これぞまさに「技術の粋」だ!
京都駅から特急に乗り換えて1時間ほどの京都府綾部市に、住友理工ホーステックスの本社はあります。もともと産業用ホースは、住友理工の産業ホース事業部門によって愛知県小牧市と三重県松阪市の2拠点で製造されていました。しかし、より生産性を高めるためには広大な敷地が必要とのことで、2013年から綾部がホース事業の本拠になったとのことです。
製造現場では、マンドレルといわれている鉄芯にホースの材料となるゴムやワイヤーが小気味よく取り付けられていく様子につぼいさんも興味津々。ゴムの質感を手で確かめながら食い入るようにご担当者に取材されていました。
そして、工場のスケール感もさることながら私たちが何より驚いたのは、独自のゴム配合技術とワイヤーを巻く職人さんの手作業によって少量多品種を実現されているということ。こうして作られたホースが、世界中の様々な建設現場や災害現場での活動を支えている――。知られざる匠の技と縁の下の力持ちの発見に、一同取材の醍醐味を味わいました。