つぼいひろきの住友グループ探訪
住友電装 四日市製作所・津製作所
1917年に電線製造会社として創業。「つなげる、つながる」技術を核に、
今日では自動車用ワイヤーハーネスのグローバル企業として、自動車産業に最先端の技術を届けている。
1917年に電線製造会社として創業。「つなげる、つながる」技術を核に、
今日では自動車用ワイヤーハーネスのグローバル企業として、自動車産業に最先端の技術を届けている。
近年のクルマの進化は目覚ましい。「電動化」の流れは加速する一方だし、インターネットに常時接続する「コネクテッドカー」の市場も盛り上がっている。みんなの夢である「自動運転車」の時代が本格的に到来するのも遠い日ではないだろう。
さて、このように「クルマの未来化」が進むと何が起きるか? 当然ながら、クルマの部品がめちゃくちゃ増えるのだ!
様々な機能を担う電子部品を制御するには、電力や信号を車内の隅々まで伝えなくてはならない。そのための回路となるのが、無数の電線にコネクタやクランプなどのパーツを取り付けた「ワイヤーハーネス」。人体に例えると、血管や神経に相当する重要な部品だ。今回ボクが訪れたのは、この自動車用ワイヤーハーネスで世界トップクラスのシェアを誇る住友電装の、四日市製作所と津製作所である。
クルマの部品が増えるということは、それらにつながる回路も増えるということ。それでなくとも、かつては高級車限定のオプションだったシートヒーターが軽自動車にも普通に搭載されるような時代だ。これ以上クルマが高性能・高機能になったら、車内がワイヤーハーネスでぎちぎちになってしまう……!?
だが、心配はご無用。住友電装では、クルマの進化に合わせた新技術や製品の開発に日々取り組んでいる。例えば「アルミワイヤーハーネス」。「当社では、従来は銅電線を使っていたエンジン用のハーネスに、世界で初めて高強度のアルミ合金電線を採用し、回路の数は減らさずに50%近い軽量化を実現したのです」とほほ笑むのは、同社広報の金賢珠さん。さらに、電気自動車用には、電磁ノイズを防ぐアルミパイプで大電流に対応する高電圧ハーネスを包んだ「床下パイプハーネス」を開発するなど、様々な車種や部位に対応したバリエーション豊かな製品を展開しているのだ。
最初に向かった四日市製作所では、そんなワイヤーハーネスの中でもとりわけ複雑な構造を持つ「インパネハーネス」の製造工程を見学。クルマのインパネ(インストルメントパネル)には、各種メーターからエアコンスイッチ、オーディオ、エアバッグまで、数々の機能が搭載されている。それだけに、回路数は多い場合で約600本にもなるという。
車種に合わせて何種類もの電線を必要な長さにカットし、それぞれに接続用の金属端子を取り付けるまでの工程は自動化されているが、あまりに部品が多いため、以降はほぼ「手作業」の領域となる。しかも、配線を一つ間違えるだけで不具合が出てしまうシビアな世界。だが、プロフェッショナルを侮ってはいけない。四日市製作所では、なんと2000日連続で「客先クレーム0(ゼロ)」の記録を更新中だという。
この徹底した品質へのこだわりは、製造の9割を担っている海外の工場にも受け継がれている。「当社の合言葉は『世界同一最高品質』。それを実現するには、すべての拠点で従業員に対して同等の教育・訓練を行わなくてはなりません。四日市製作所と津製作所は、新しい技術を海外に展開する前の準備を行ったり、海外の拠点に技術支援を行ったりするマザー工場としての役割を担っているのです」(金さん)
住友電装の海外拠点は、全世界32カ国に広がっている。実に20万人以上の従業員が、日々モノづくりに励んでいるのだ。そんな彼らにとってのハレの場が、年に1度の「ワイヤーハーネス技能競技大会」。各工場から選ばれた実力者が「世界一」を目指して競い合うイベントだ。ボクも競技種目の一つである「ハーフラップ巻き」に挑戦してみた。50cm長の電線の束に、幅19mmの黒粘着テープを端がきっちり半分ずつ重なるように巻き付けていくというもので、レコード保持者はこれを12秒ほどでやってのけるのだという。さらに、スピードよりもラップの回数やシワの有無といった品質の方が重視されるそう。ちなみに、ボクは1分経過しても巻き終わらなかった……無念である。
こうした高度な手作業を極める一方で、「ワイヤーハーネスをコアとするメガサプライヤー」を目指す住友電装では、生産力の向上のために、製造ラインの自動化にも積極的に取り組んでいる。その最先端に触れることができるのが、各種コネクタや車載コンピューター、ハイブリッド自動車用の部品などの製造を手掛ける津製作所だ。各工場にひしめくマシンの中では、ロボットアームが機械とは思えないような繊細な動きで複雑な作業を黙々と行っていた。そのけなげな様子に心打たれるボク。まさに人と機械が一丸となってのキメの細かいモノづくりが、「クルマの未来」を支えているのだと実感した1日だった。
複雑な組み立て作業を24時間ぶっ通しで続けることができるのはマシンならでは(左上)。その傍らで、人は人ならではの高度な作業に集中することができる。車載エレクトロニクス機器の製造工場では、コンピューターによるチェックで引っ掛かってきた基盤の不具合を、人が拡大画像で1点1点検証するというWチェック体制で、万全の検品が行われていた。見つかった不具合は、人が手作業で修正するため、無駄が出ないのもポイントだ。
近年の目覚ましい自動車の電動化と自動運転化により、「自動車の血管」ともいわれているワイヤーハーネスに求められる役割はますます多くなっています。同じ車種でもオプションによってハーネスの仕様が変わることで、生産性の向上と複雑なニーズへの対応という両方の課題に応えていかなければなりません。午前中にお邪魔した四日市製作所ではカラフルなパーツに彩られた作業場で、多くの女性がいきいきと組立て作業を進めていました。一方、午後にお邪魔した津製作所では、広大な工場に整然と配置されたロボットが小気味よいテンポで電子部品を作っていました。それぞれの長所を活かしながら人とロボットが共存している現場を一日で拝見し、何だか明るい気持ちになって帰路についたスタッフ一同でした。