つぼいひろきの住友グループ探訪
NSG ベトナムグラスインダストリー社

建築用、自動車用ガラスおよび高機能ガラス製品を製造する日本板硝子(NSGグループ)。
世界各地に製造拠点を持ち、100カ国以上で販売している。ベトナムグラスインダストリー社は同社の100%子会社。

砂がこんなに大きなガラスに!? 砂がこんなに大きなガラスに!?

切断ラインに載って運ばれる板ガラスは約4mという長さ。

切断ラインに載って運ばれる板ガラスは約4mという長さ(上)。VGIはベトナム最大の都市・ホーチミン市から約50kmに位置し、バリアブンタウ省にある。このエリアは工場地帯で日本企業の工場も多数(左)

世界の数多くの国々が脱炭素化社会の実現を目指す中で、最近注目されているのが、自然エネルギーの一つである太陽光発電だ。

世界的なガラスメーカーである日本板硝子では、得意の薄膜形成技術を生かして太陽電池パネル用のガラスを生産している。中でも、日本板硝子が100%出資しているNSG ベトナムグラスインダストリー社(以下、VGI)は、この太陽電池パネル用ガラスの生産に特化した工場で、2020年1月に製造設備が増強されたばかりだとか。興味深いのは、「オンラインコーティング」というその製造工程。同社独自の大変優れた技術らしい。詳しいことを知りたいと、今回は(残念ながら)オンラインでVGIを探訪した。

「VGIのあるバリアブンタウ省は天然ガスがパイプラインで供給されるベトナム唯一の地域。さらに発電所にも近く、ガラス製造に不可欠なエネルギーの確保という点では非常に有利な立地にありますね」とお話しくださったのは、市來聖敬いちききよたか社長だ。工場の広さが約30haといわれてもピンと来なかったが、東京ドーム6個分と聞けばすごい! 日本人スタッフは3人で、他にもおよそ650人のベトナム人が働いているという。

「ベトナム語は非常に難しくて、多少勉強してもなかなか話せません。マネージャーやエンジニアたちが、私の下手な英語を理解してくれるほうが早かったので(笑)、日常会話はほぼ英語ですね」と市來社長。今のベトナムは、高度経済成長期の日本のようで、ベトナム人の社員たちは一生懸命に働き、そして豊かになった生活を楽しんでいるという。

VGIの近くを流れるチーバイ川から製品を輸出しているんですよ 船で世界へ届けられているんですね VGIの近くを流れるチーバイ川から製品を輸出しているんですよ 船で世界へ届けられているんですね

そうしたベトナムの経済成長を見越して、日本板硝子はベトナム国内の建築市場向けにガラスを供給するため、1995年にベトナム北部・ハノイ近郊にベトナムフロートガラス社(VFG)を、そして1997年に南部・ホーチミンにVGIを設立したということだが、やがて、世界で太陽光発電の需要がぐんぐんと伸びてきた。VGIは2010年に太陽電池パネル用ガラスの生産に特化することとなり、2011年に太陽電池パネルの専用設備1基が稼働を開始している。さらに、もう1基も専用設備に改修し、2020年2月からは2基がフル稼働中だ。

2020年のフロート製造ラインの火入れ式の様子。

ではなぜ、太陽電池パネル用に改造しなければならなかったかといえば、そこに日本板硝子が世界に誇る「オンラインコーティング」という技術が入っているんだな。詳しく教えていただいた。

ガラスに特殊な機能を持たせるために薄膜をつける方法の一つとして、「化学気相成長(CVD=Chemical Vapor Deposition)」があるのだけれど、日本板硝子はそれを文字通り「オンライン」で、つまりガラスを製造する工程の中で薄膜を形成する技術を持っているんだ。

ガラスは通常、主な原材料である珪砂を熱して液体状にしたものをフロートバスに流す。そこには溶融したスズが入っていて、ガラスはそこに浮かんだ状態で平たく均一にのばされ、それが冷やされることで板ガラスになるわけだけど、オンラインCVDは、フロートバスに浮かんでいる状態のときに複数のガスを吹きつけることで、化学反応を起こさせてガラス表面に薄膜をつけるらしい。この技術によって、より低コストで、しかも大量生産が可能となった。とても画期的な技術なんだ。

太陽電池パネル用ガラスができるまで

ガラスはカッティングされるまで1本の帯状につながっているんだ ガラスはカッティングされるまで1本の帯状につながっているんだ

原料(主に珪砂)を溶解窯で加熱。溶かしたガラスはフロートバス(溶融スズのお風呂)へ流し、溶融スズに浮かべ成形する。その過程でCVD法によりガラス表面に太陽電池の電極用ガラスにするための透明導電膜(TCO)をつける。徐冷工程で平らで歪みのないガラスに仕上げる。

オンラインCVDを生かして作られるガラスには、例えば美術館などで見かける、まるでガラスがないような周囲の映り込みのない展示ケースがある。光の反射を抑える薄膜がつけられているからなんだね。逆に高反射の機能を持たせると、鏡のようになったガラスの向こうから別の映像や文字情報を浮かび上がらせることもできる。太陽電池パネル用ガラスと同じ、透明導電膜付きガラス(TCOガラス)は調光窓にも使用され、ガラスを透明にしたり、暗く不透明にしたりすることもできるらしい。すでに窓のブラインドの代わりに採用されているそうだ。

確かにこんなにすごいことができるガラスを作るんだから、通常の製造工程とは違うはずだ。「そうなんです。原材料を溶かす溶解窯からできあがったガラスを取り上げるところまで全く設備の仕様が異なるので、ラインのほぼ全てにおいて改造を行いました。新しく一から作るより大変だったかもしれませんね。さらに、ベトナムも以前より環境基準が厳しくなってきましたから、それに適合する設備も新たに設置しました」と市來社長は語っている。オンラインCVD設備を持つ工場は世界4カ国に6工場あり、VGIの改修においてもこれらの工場から応援が来て、協力し合って無事に終了したんだそうだ。すごいチームワーク!

できあがったガラスはロボットで専用の函に格納する。
ガラスをカッティングする切断ライン。カッターでガラス表面に傷をつけてカッティングを行う。

ところで、ここで生産される製品は、ほぼ100%海外に輸出されるという。聞けば、なんと日本板硝子で生産される太陽電池パネル用ガラスの約3分の2が、このVGIで作られているんだって! 市來社長も「環境に対する関心が高まる中、CO2の削減に大きく貢献できる太陽電池パネル用のTCOガラスを製造することを非常に誇らしく、また幸せなことと感じています。これからも社会に貢献し続けられるように、ベトナムの仲間や世界の同僚たちと新しいことに挑戦し、さらに良い製品をお届けできるよう頑張ります」と語ってくださった。僕も太陽電池パネルを見るたびに、遠くベトナムで頑張っている市來社長やベトナムの人たちのことを思い出すよ。

ガラスの透明度を目指します!

工場内は暑いところもあるのですが一緒に歩くベトナム人は汗をほとんどかいていないんですよ あつーっ
逆に25℃くらいで寒がる人もいるくらいで 思わぬところでお国柄の違いが 快適 寒い!
今の話はユニークですが実際文化の壁みたいなできごともあるんでしょうね 確かに壁はありました
でも今はすっかり溶け込んでいますよく見えるガラスのようにすることが我々の事業の醍醐味ですよ うまい!

編集スタッフの取材後記

オンラインコーティングは、ガラスに断熱や遮熱、導電性などの機能を付加できます。そのため、太陽電池パネルだけでなく、スマートビルやZEH・ZEB、EVといった、社会の進化を支えるソリューションにも役立つと取材時に伺いました。新しい技術が自分たちの生活を便利に変えていく。これはものづくりの原点にあることですが、改めて素敵なことだと実感しました。
パソコン画面に映る市來社長の背景では、南国の木々がそよ風に揺れていて、ベトナムの雰囲気たっぷり。現地へ取材に行った気分になれたのも技術の進歩のおかげですね。

およそ650人のベトナム人が働くVGI。2011年の1基目稼働時は、ガラス製造の経験者はほぼ皆無でした。そこから9年、2基目が稼働した2020年は、2011年からいるメンバーが新しく入ったスタッフをトレーニングしたそう。

マンガルポ「住友グループ探訪」 ナンバー

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