つぼいひろきの住友グループ探訪
明電舎 技術研修センター「Manabi-ya」
明電舎は電力や鉄道、水処理施設向けインフラ関連電気設備や、電気自動車のモーターなど、国内外で幅広く事業を展開。技術研修センターの「Manabi-ya」は2020年10月に竣工した。
明電舎は電力や鉄道、水処理施設向けインフラ関連電気設備や、電気自動車のモーターなど、国内外で幅広く事業を展開。技術研修センターの「Manabi-ya」は2020年10月に竣工した。
実習エリアは受変電、電力変換、可変速、水処理の四つの専門エリアに分かれる。
静岡県沼津市といえば、日本一深い湾・駿河湾に臨み、振り返れば日本一高い山・富士山が雄大な姿で構えるゼイタクな街。
その沼津市に2020年10月、明電舎の技術研修センター「Manabi-ya(学び舎)」がオープンした。メンテナンス部門の新入社員を一人前のサービスエンジニアに育成する施設だ。これまでの座学とOJTを中心とした研修とはひと味ちがう社員教育をここで始めたと聞いたので、お邪魔することにした。
完成ホヤホヤの施設は2階建て。人事企画部キャリア開発室人財育成課の鈴木英正さんが設立の目的を教えてくれた。「座学だけでは実践的な学びは難しいですし、OJTも現場により対応が異なってしまいます。技術をしっかりと伝承し、お客様の要望に応えるサービスエンジニアを一日も早く育成するには、現場に即した技術や知識を体系立てて学べる施設が必要。そこでManabi-yaが誕生しました」
まず案内されたのは2階の「Manabi-ya Digital Zone」。ここはバーチャル体験教育エリアで、窓際にスポーツジムにあるような機械が何台も並んでいる。VRやAR、MRといった最新のICTを活用した五つのゾーンが用意される。
ボクもさっそく体験させてもらった。まずはセーフティトレーニングゾーン。現場で起こり得る事故をVRで体験しながら、保安の心構えと危険への感受性を体得するものだ。高所からの墜落、階段での転倒を始め、計14種類のコンテンツがラインアップされている。
ボクは「墜落」のコースをチョイスした。ヘッドマウントディスプレイを装着し、前後左右の動きや振動、衝撃を実感できるプレートに乗って、両手にはコントローラーをつかむ。作業現場で荷物を持ちながらハシゴに手をかけるボク。上り始めると不安定なハシゴが揺れ、アッという間に地面へ……。映像と体の動きが同期しているので、真剣にコワくて、落ちた瞬間は血しぶきのような赤いモノまでが視界に広がる。どこまでもリアル!
ARを体験したゾーンは二つ。バーチャルアセットゾーンは大型設備の実物大3Dモデルを再現し、現場に赴かなくてもメンテナンス手順を仮想的に学習するもので、目の前に現れるバーチャルな機器と作業内容を示すARを見ながら学んでいく。もう一つのリアルアセットゾーンは実際の機器にARを重ね合わせて表示し、作業のコツを学べる。このほか、MRやモーションキャプチャを体験するゾーンもある。
続いて、1階の実習エリアに降りた。新入社員教育は4月からの半年、座学を中心とした集合研修を行い、Manabi-ya Digital Zoneもその時に使われる。そして半年たった後、メンテナンス部門配属社員については実習エリアで1年間の研修を続ける。
かつては半年の座学研修を受けるとすぐ工場の最前線に配属され、OJTで技術を身につけていった。「OJTで行える教育範囲は限られていましたが、Manabi-yaができたことで、組み立て実習から点検、緊急対応、設備の延命化まで幅の広い教育が可能になったのです」と、同課の船島茂さんが説明してくれた。
2020年10月からの1期生は15人で、講師はサービスエンジニア3人と工場の熟練者3人の計6人。実習に使う配電盤を開けると、実習生がボルトをぶち切った傷跡が残っていて、ほほ笑ましい気持ちになった。「考えトライした結果、壊れたのは問わないと伝えています。もちろん危険な状況になりそうなら講師が止めますが、基本的には生徒が自発的に学び、仲間と協力しながら取り組む姿勢を重視しています。マンツーマンに近い形で研修するので、理解できるまでじっくりと学べますし、実際のお客様先の設備では試せない作業に繰り返しチャレンジできるのもポイントですね」と船島さん。
失敗を経験する中で学んでいく、これが基本方針だ。指導側も全てを教えるのではなく、実習生同士で学び合い、教え合う中でのスキルアップをリードする。「いまは昔のように背中を見て学べという時代ではありません。経験豊富な講師のもと、濃い内容の研修で実習生のモチベーションを上げることで、技術伝承と早期育成の目標を達成できると考えています」と鈴木さん。まだまだ1期生の段階なので、今後も試行錯誤を重ねながら、より良い形を模索していくとのことだ。
新しい力を伸ばしていくため、いまはICTを活用するのがトレンド。明電舎はそれに加えて、人と人とのつながりという温かい価値観も大切にしていると感じ、教育の新しい形を見た気がした。
新しい技術研修センターに付けられた名前、「Manabi-ya」。日本語で書けば、いうまでもなく「学び舎」だ。この「舎」は社名の明電舎にも通じる。ということは、同社がこの新たな教育研修の場に強い思いを込めていることは容易に想像できる。明電舎の舎は、「電気の力で世の中を豊かにする」という志を持った仲間たちが集う場所という意味が込められている。そしてManabi-yaは、これからの時代の明電舎を担う若き人々が集まる場所だ。1年間の共同生活を送りながらお互い修練して技術を磨き、実習にも取り組むことで、明電舎の仲間という意識を築き上げる場となる。学び舎は、学び合い、教え合い、そして高め合う舎でもあるのだ。
いやぁ、セーフティトレーニングゾーンのVRコンテンツ、本当に怖かったです…。
私が体験したVRは、実際に起こりえるシーンを物語化したもの。フォークリフトの過剰積載、連絡ミスによる感電事故、確認不足による火災など、いずれもストーリーを追っていくので没入感があるんです。
足元のプレートとゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイの連動により、上下移動や振動、衝撃などがリアルに迫ってきます。VRと分かっていても、恐怖におののき、心臓はバクバク。建設現場における安全確保の重要性を身をもって学べる機器でした。