つぼいひろきの住友グループ探訪
住友化学 大分工場

石油化学、エネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業関連事業、医薬品の5事業部門を手掛ける住友化学。健康・農業関連事業の除草剤「スミソーヤ」を製造する大分工場を訪問した。

港湾施設もあるよ!

住友化学大分工場の面積は約77万m2と広大。海側には原料を受け入れる港湾施設もある。

港湾施設もあるよ!

正門と、そこから奥に続くクスノキ並木。工場内には1000本を超えるクスノキが植えられている。中には樹齢50年を超える木もある。

家庭菜園を営んだり観葉植物を育てたりしている人にはおなじみの農薬。農作物や観賞用植物などに発生する病害虫や雑草を防除するために使用される。

住友化学は、国内に8カ所ある工場のうち、農薬は主に、大分工場と三沢工場で製造している。今回は、主力の除草剤である「スミソーヤ」を紹介するため大分工場を訪れた。

フルミオキサジン(スミソーヤの成分名)の製造工程

出荷 ← 乾燥/充填 ← 濾過 ← 晶析 ← 反応/後処理 出荷 ← 乾燥/充填 ← 濾過 ← 晶析 ← 反応/後処理

反応器に原料(液体、粉体)を投入後、複数の反応を経て、目的の化合物を合成する。得られた化合物を結晶化し、濾過後に、乾燥、充填して製品化する。1980年代初頭、当時、世界的に農業の発展が叫ばれる中、フルミオキサジンの開発は始まった。住友化学では除草剤のラインナップ拡充を目指して、国内のみならず、北米を中心としたグローバル市場で展開できる除草剤をつくりたいという経営陣や開発陣の強い思いから、スクリーニングを繰り返して実現した。

「大分工場は1939年に染料やゴム薬品、医薬品中間体を生産する工場として操業を開始し、現在では農薬、医薬品中間体、レゾルシン(タイヤ用接着剤)、添加剤などファインケミカル品の製造を行っています」と教えてくれたのは、同工場総務部の柏原秀行さん。2003年には、同じ敷地内に、グループ会社である住友製薬(現・大日本住友製薬)が住友化学から原薬製造設備を引き継いで住友製薬大分工場を発足させ、現在は、様々な原薬を生産しているんだ。

今回取り上げる「スミソーヤ」。住友の「スミ」と、大豆を意味する「ソーヤ(soya)」から命名された。その名の通り、主に大豆栽培に使用される除草剤だ。

スミソーヤの特徴を一言で言うと、散布した後、長期間にわたって雑草の発生を抑え、それにより作物の初期の発育を促す効果を示すことだ。他にも「大豆に対する高い安全性」「幅広い雑草種に効果がある」「散布してから効果が早く現れる」「続けて栽培する作物への影響が少ない」などの利点がある。ブラジルや米国、アルゼンチン、カナダという南北アメリカ諸国を中心に、世界39カ国で広く使用されているのもうなずけるね。

スミソーヤのプラント。最上階にだけ外壁があるのは、管理された環境で原料を投入する作業をするため。
製品化合物を合成する反応釜。

スミソーヤは製品名で、成分の名前は「フルミオキサジン」と言って、開発は長期にわたって行われてきたんだ。その始まりは1980年代前半で、最初に発売されたのは1993年のアルゼンチン。大豆以外にも適応できる作物の範囲が拡大され、フランスではブドウ畑の下草の長期にわたる雑草防除に販売されていった。一大市場である米国では、発明からほぼ20年を経て農薬登録を取得したんだ。

米国では当初、大豆およびピーナッツ畑の発芽前処理などに向けて販売された後、非農耕地、低木や観賞用植物の下草防除、綿畑の畝間処理などに使用場面を拡大していった。その後、遺伝子組み換え大豆の畑に生えるグリホサートに対する抵抗性雑草に対して有効であることが見いだされ、販売量が急速に増加した。

大分工場での生産が始まったのは、こうした事業環境下の1995年。フルミオキサジンの高い安全性と競争力のある製造プロセスを確立してのことだった。その後も増加する販売需要に応えるため、2008年に第1プラントの能力増強を行い、2011年には既設のプラントを改造した第2プラントでも生産を始め、さらに2012年に第3プラントを新設して生産を拡大した。

住友化学は、「除草剤フルミオキサジンの開発」で、2017年に日本の生産工学・高度生産方式などに関する顕著な業績を上げたとして第63回「大河内記念生産特賞」を受賞している。だけど、開発したのはそれから30年以上前の1984年。どうして、長い年月を隔てての受賞となったのか、説明しよう。

フルミオキサジンは、大豆やピーナッツの発芽前土壌処理として主に雑草を防除する目的で、最初にアルゼンチンで発売し、さらにブラジル、米国で農薬登録を取得する計画だった。

しかし、米国登録に向けての試験は想定以上に時間がかかり、1996年には米国で新しい農薬規制法(FQPA)が施行されたことも重なり、その結果、米国での発売は、発明から20年近くたった2001年となったんだ。

スミソーヤはすぐ、長く効くんです だから環境負荷を減らせるんですね! スミソーヤはすぐ、長く効くんです だから環境負荷を減らせるんですね!

大分は、工場内にも温泉?

ん? 何の音だろう?
分かった! おんせん県・大分だから、温泉の湯気ですね!
いえいえ、製造に使う熱源となる蒸気を逃がしているんです
その晩 ボクも蒸気を出す熱源でよくあったまるぞ!

スミソーヤの現在の主な販売先は前にも述べたように南北アメリカで、今後も成長が見込めるこの地域を中心に拡販を目指している。そのための基本方針は、新たな製剤、混合剤の開発や他社との協業によるシェア拡大、さらなるコスト競争力の追求、そして他社の後発製品に負けないブランドを確立することなんだって。

最近は、ニュースでも毎日のように「サステナブル」という言葉を見たり聞いたりするよね。スミソーヤにとってのサステナブルは、何だろう。

「スミソーヤは長期間にわたって雑草の発生を抑える効果があることから、作物の栽培期間中に使用される除草剤の使用回数を削減でき、環境負荷の低減に貢献していると言えます。また南北アメリカ諸国では、農地を耕さずに作物を栽培する『不耕起栽培』に採用されていて、耕起回数を減少させることで耕起に必要な燃料消費を削減し、温室効果ガスの削減にも貢献しているんですよ」と柏原さん。

使用回数や土を耕す回数を少なくして環境負荷を減らす農薬なんて、考えたこともなかったなあ。今度ホームセンターに行くときは、どんな農薬があるか見てみようかな。

編集スタッフの取材後記

住友化学大分工場がある大分市東部の鶴崎地域は、大分臨海工業地帯の一角を占めています。江戸時代には肥後熊本藩の飛領で、重要な港町として栄えてきました。当時、鶴崎地域周辺を往来する船が多く、同藩はそれらを監視するために番所を設置していました。この番所跡が、工場の敷地内に残っており、近世の港町の賑わいを偲ばせています。

工場敷地の海側にある熊本藩御番所跡。鶴崎地域の歴史を物語る史跡の一つである。

マンガルポ「住友グループ探訪」 ナンバー

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