つぼいひろきの住友グループ探訪
住友ベークライト
Packaging Innovation Center (PIC)
複数のフィルム関連製品でトップシェアを誇る住友ベークライト。コロナ禍の下で対面でのビジネスが難しくなったなか、リアルとオンラインを組み合わせたビジネス推進の方法を早くも確立させた。
複数のフィルム関連製品でトップシェアを誇る住友ベークライト。コロナ禍の下で対面でのビジネスが難しくなったなか、リアルとオンラインを組み合わせたビジネス推進の方法を早くも確立させた。
今回の取材先は住友ベークライト。社名にあるベークライトは、1907年に米国でベークランド博士が開発したフェノール樹脂の商品名のこと。そして住友ベークライトは、日本で初めてプラスチックを製造した会社だと知って驚いた! 現在は、医薬品や食品の包装材、医療機器などの「クオリティオブライフ製品」と、半導体封止用エポキシ樹脂成形材料などの「半導体関連材料」、そして主に自動車用の摩擦材などに使われるフェノール樹脂といった「高機能プラスチック」という三つの事業を展開しており、売上高もほぼ3分の1ずつだそうだ。
今回同社の尼崎工場にお邪魔したのは、新型コロナウイルス感染が拡大し、お客様とのリアルなコミュニケーションが難しくなるなか、フィルム・シート営業本部が2021年11月に「Packaging Innovation Center (PIC)」を開設し、オンラインも上手に活用したビジネスをしていると聞いたからだ。
PICを開設したフィルム・シート研究所が手がけているのが、医薬品や食品の包装材料、産業工程材料のカバーテープやダイシングテープ、離型フィルムなど。驚いたのは、錠剤やカプセル剤を包装している医薬品PTP包装材料のシェアは70%で国内トップ、野菜の鮮度を保つ鮮度保持フィルムも国内トップ。さらに半導体・電子部品の搬送時に使用される包装用カバーテープは世界トップ、すごい!
どうして国内外で愛用されているんだろう。フィルム・シート研究所の竹内健さんは「顧客に徹底的に寄り添い、対面で製品開発や課題解決に取り組んできたからでしょう。まさに『かゆいところに手が届く』技術サポートが、弊社を選んでいただいている理由だと考えています」と教えてくれた。
具体的には、開発の初期段階では、顧客が完成のイメージをつかみやすいようにイラストを多用したり、お客様と同じ生産設備を研究所内に備えて試作をしたりしている。さらに、開発現場を体験してもらうために、顧客を招いてプライベートセミナーも開催してきた。これにより、同社が頼りになる存在になると同時に、顧客の開発スピードも上がっているんだって。
ところが、2020年から拡大した新型コロナウイルスのせいで、対面で実施してきたこれらの強みが発揮できなくなってしまった。「そこで急きょ取り組んだのが、対面とオンラインの取り組みを組み合わせた『ハイブリッド活動』です。ここPICを活用して、実際にお越しいただけなくても、あたかも現地で立ち会っていただいているような臨場感で研究開発現場をライブ配信し、その場で質問を受け付けたり、ご要望に応じて装置を操作したりするLive Demonstration Webinar(LDW)を進めています」と竹内さん。
PIC内は、フィルム・シート研究所の吉田真吾さんに案内してもらった。
まず1階には、医薬品用のPTP包装材料と、食品包装用フィルムの試作品づくりや評価を行っている専用室がそれぞれに設けられていた。以前は、一つの同じ評価室で研究開発をしていたそうだけど、複数の顧客を同時にお迎えできない不便さもあり、またライブ配信するための動線も考えて独立させた。
フィルム・シート研究所の既存の施設を進化させたPICは、1階のPackaging Laboと命名された「エントランス&成形加工室&品質保証エリア」と、中2階の「評価エリア」、3階のInnovation Roomとした「スタジオ&打ち合わせエリア」で構成される。
食品専用評価室では、今最も注目されているという、スキンパック包装を見せてもらった。まさに肌(スキン)のように、肉の塊に特殊フィルムがあっという間に密着した。この真空パック包装だと肉汁が出るのが抑えられ、食品の鮮度が格段に長く保たれるそうだ。
医薬品専用評価室では、実際の現場で使われている錠剤の包装機のデモンストレーションを見せてもらった。そこでなるほどと思ったのが、「ちょうどいい力」で錠剤を取り出せるかに気を配っていること。
中2階のフィルムの評価室では、フィルム上での液体の広がり方や、フィルムをどれぐらいの力で引っ張ると破断するかを測定している。隣のカバーテープ評価室では、テーピング機装置でフィルムの張り付き具合を評価している。これらの装置にはカメラが設置されていて、顧客はオンラインで実験の様子を見られるんだ。
半導体工程フィルム実験室では、半導体用のシリコンウエハを粘着・固定して組み立てるための接着テープの性能を評価している。そして3階のInnovation Roomは、ライブ配信用のスタジオのほか、顧客との対面での打ち合わせのための空間も用意されていた。
例えば、2021年12月にライブ配信で2日間にわたって実施したプライベートセミナーには、65社390人も参加してくれた。ライブ配信で現場の研究員の雰囲気も伝え、親しみを持ってもらうのにも成功したんだ。コロナ禍が終わっても、PICはハイブリッド活動の拠点として大いに活用され続けると思うよ。
Packaging Innovation Center (PIC)で始まったハイブリッド活動。驚いたのは、メインスタジオの製作から、現場でのレポート、撮影、さらにはその映像の中継や画面の切り替えまで、すべてをプロに任せず、自分たちで勉強して行っていたことでした。だからこそお客様にも真剣な表情がリアルに伝わっており、親近感の醸成にもつながっているようです。取材時にその様子の動画も視聴しましたが、違和感は全くなく、完成度は高い。誰もがさまざまなメディアを使えるようになった現在、自ら学び取っていく姿勢がますます重要になっていることを実感しました。