つぼいひろきの住友グループ探訪
日新電機 前橋製作所 GIS新工場
日新電機はGIS(ガス絶縁開閉装置)の新工場を前橋製作所(群馬県前橋市)内に新設した。同社の中長期計画「VISION2025」にある成長戦略の端緒にもなる重要な取り組みだ。
日新電機はGIS(ガス絶縁開閉装置)の新工場を前橋製作所(群馬県前橋市)内に新設した。同社の中長期計画「VISION2025」にある成長戦略の端緒にもなる重要な取り組みだ。
群馬県を代表する赤城山や榛名山などの山々を望む前橋市の郊外に、日新電機の基幹工場、前橋製作所が立地している。この前橋製作所に2022年4月、同社の主力製品の一つであるGIS(ガス絶縁開閉装置)の新工場が完成した。
新工場は、一気通貫の生産ラインを整え、あらゆるモノがネットにつながるIoTやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを駆使したスマート工場だ。そのすごさを知りたく、新工場建設のプロジェクトチームリーダーで、電力機器事業部開閉機器製造部部長の藤塚則夫さんと主幹の神宮肇さんに聞いた。
まずGISとは、電力の安全・安定供給のために変電・受電設備として設置される設備とのこと。それに付け加えて神宮さんは、「GISは変電所や大型施設で使用されますが、一般の方の目に触れるものではないですからね。役割としては家庭の中にあるブレーカーのようなものです」と説明してくれた。さらに同社が生産するGISは「世界最小クラスの超縮小型」で、業界でのシェアもトップクラスなんだ。
GIS新工場建設の背景について、藤塚さんの説明はこうだ。「旧工場の老朽化もありますが、60年前に開設した当時から比べると製品が複雑化し、それに伴い生産ラインも複雑化して動線が右に行ったり左に行ったりで長くなっていました。それを改善するのも目的の一つです。さらに再生可能エネルギーにおける普及の加速や拡大に伴い、GISの需要増加が見込まれ、増産を実現することも求められていました。新工場の稼働で生産能力は最大1.5倍(2018年度比)に増強しています」
新工場の概要を伺ってから足を運んだのが、2階の見学窓。そこから工場の生産ライン全体を見渡すことができる。手前から奥に向かって部品組立、接続、検査、解体、出荷という工程ごとのエリアが順番に並んでいる。天井部には、部品やユニットを移動するためのクレーンが見えるぞ。
「製品は、お客様によって仕様が異なるので多品種少量生産となります。そのため一つひとつの工程で、それぞれの持ち場の従業員が、仕様に合わせて作業を行います。動線をひとつながりにすることで最適化を実現し、運搬時間を削減することで、人時生産性は大幅にアップしました」と藤塚さん。
さらに、生産ラインにネットワークカメラを、各職場にモニターを設置することで、製品の製作状況を見える化した。また、3D-CAD(コンピューターによる3次元の設計・製造)ソフトウェアとの連携やBIツールなどの最新のIT(情報技術)を積極的に導入している。
従来の動線は重複が多かったが、新工場では重複のない最適な動線を実現した。
次に1階に下り、実際の工場内に足を踏み入れた。そこでは、生産ラインでの様々な工夫も行われていた。その一つが、約2900m2の工場内全体を防塵化したこと。部材倉庫、パスルーム、組立エリアなどを隔てるシャッターを設けながら、2カ所を同時に開けられないインターロック方式を採用している。
また床面で目につくのが、敷き詰められたピカピカの金属製の定盤だ。GISの生産には高度な水平レベルが求められ、同工場内のレベルの誤差はなんと±0.2mm! 「このレベルを維持するために半年に1回、3次元測定でレベルを測定し、誤差の範囲外だと、ボルトで微調整します」
ユニットや製品を平行移動する際に使用する巨大なトラバーサーも設置されている。「ユニットの重さは10t以上になることもあります。クレーンだけに頼るとリスクも大きいので」と神宮さん。
新工場建設のためのプロジェクトチームが発足したのは、2019年11月のこと。しかし翌年8月に敷地を整備していた中で、約1500年前の土器が出土する。そのため、着工が予定より半年ほど遅れたが、プロジェクトチームは逆に準備を充実させる期間として捉え、IT導入のための知見を深めていった。実は古墳時代、工場の立地する場所は利根川の流域に当たり、太古の昔から人間が生活していた。1500年前では、土器製作は先進技術の一つ。上毛の地では悠久の時を経て、前橋製作所に先進技術が導入されていると想像すると、夢が広がるね。
日新電機は、中長期計画「VISION2025」で事業基盤強化を掲げている。その中で、「モノづくり力の強化」「生産性向上」を挙げている。新工場の取り組みはこれら事業基盤強化のための施策の一環だ。日新電機は、ITを取り込み、生産性の向上や省人化を実現したスマート工場の全社展開を図っていくそうだよ。
この新工場では、多様な人たちに優しい様々な設備を2階のオフィスエリアに設けています。その一つが、「だれでもトイレ」。このトイレは、障がい者や、妊娠している人はもちろん、性別を問わずだれも使用できるジェンダーフリーのもの。いわゆる「多目的トイレ」は、昨今見かけるようになっていますが、性別問わず使用できるトイレは、時代の先端を行く取り組みです。他にも休憩時に使用するコミュニケーションルームを大小5部屋用意。窓際のカウンターに設置された椅子は、座るとバランスボールのように揺れて簡単なエクササイズに使えるなど、従業員の健康維持にも配慮していました。各部屋の名前は、「akagi」や「haruna」という具合に、地域の山の名前を付けていて、地元愛も感じました。