つぼいひろきの住友グループ探訪
住友電工
伊丹研究本館「CRystal Lab.(クリスタルラボ)」
住友電工の創立120年記念事業の1つとして、2020年10月に開所された伊丹研究本館「CRystal Lab.」。
伊丹製作所内に分散していた4つの研究開発部門がここに集約された。
住友電工の創立120年記念事業の1つとして、2020年10月に開所された伊丹研究本館「CRystal Lab.」。
伊丹製作所内に分散していた4つの研究開発部門がここに集約された。
住友電工の非電線部門の拠点として、1941年に開設された伊丹製作所。大阪製作所に次ぐ国内で2番目に古い歴史ある製作所だ。そこに2020年に開所したばかりの、ピカピカと輝く伊丹研究本館「CRystal Lab.(クリスタルラボ)」を訪ねた。今回案内いただいたのは、アドバンストマテリアル研究所 技師長の中島猛さんと主幹の粟津知之さん、そして研究企画業務部・開発業務部 主査の津隈剛さん。まず中島さんから伊丹製作所について教えてもらった。
「戦時中に需要が急増した非電線製品の製造を行うため、伊丹製作所を開設しました。電力ケーブルや自動車用低圧電線などの製造に用いられる工具の一種である線引きダイスの生産を行っていましたが、ダイスに使われる超硬合金などの素材を生かし電線以外の産業製品も展開してきました。産業素材の研究開発を中心に、その製造や製品開発を行っており、具体的には切削工具や人工ダイヤモンド、化合物半導体、スチールコードなどの特殊金属線が挙げられます」と中島さん。鉄粉などを固める粉末冶金技術で製造される焼結部品も同社が誇る独自の技術で、こうした材料や製品の開発に欠かせない研究開発部門が同製作所には4つもあり、それが「CRystal Lab.」に集約されたのだ。
そのコンセプトは「英知が“集積”して“結晶化”された技術となり、それが次の“イノベーション”を創出する知の循環型開発拠点」だと粟津さん。CRystalのCRが大文字なのも、研究開発に重要な3つのCR、「Championship Record(断トツ)」「Cost Reduction(コストを意識した研究開発)」「Connected Research and development(つながり)」を意味するという。4つの研究開発部門が一体化したことで、研究開発の効率化や部門間の横断的な取り組みの促進が期待されている。
事務棟と実験棟の2つの棟からなる「CRystal Lab.」の総面積は約1万6000m2。働き方改革にもつながる試みが随所にあるという事務棟から案内してもらった。まずは、芝生の張られた緑化ゾーンの屋上。遠くに日本一高いビルのあべのハルカスまでも望むことができた。ベンチも置かれて、憩いの場になっているようだ。3・4階のオフィスフロアの設計コンセプトは「Concentration(集中)」と「Communication(コミュニケーション)」の2Cだという。1人で仕事に集中するためのソロワークスペースがある他、フロア中央のコラボスペースには様々なタイプのテーブルと椅子が配されている。立ったまま話ができるハイカウンターもあれば、リラックスして打ち合わせができるファミリーレストラン風のテーブルセットもあった。畳敷きのベンチはなかなかユニーク。全て社員の皆さんでアイデアを出し合ったそうだ。執務エリアは、気楽に互いが声を掛け合えるよう4つの机を突き合わせた小アイランド方式だ。こうして開発現場とそれをサポートする執務エリアが一体化したことも研究開発の促進につながるという。
そして、いよいよお楽しみのショールームへ。研究開発された技術や製品をここで実際に触れたりできるのだ。例えば、超硬合金といった材料の硬さを測ったり、スチールコードの入ったゴムの曲げにくさを確認してみたりした。中でも一番驚いたのは、薄い人工ダイヤモンドの板で氷がまるでゼリーのように切れたことだった。
実験棟のレイアウトも特徴的だ。廊下が十字路になっている理由を「我々の活動内容をクライアントやユーザーに理解してもらうためには開発現場を見せることも重要で、見学しやすいように工夫したのです」と中島さんが教えてくれた。
解析技術研究センターには日本に数台しかないという透過電子顕微鏡もあり、なんと原子レベルまで観察できるそうだ。同センターは高度な分析・解析技術を開発することで各部門の研究開発をサポートしているが、前の築60年の建屋では、床から伝わる振動で高い精度を確保できないこともあったとか。
「CRystal Lab.」では部門間交流も進み、「他流試合」も始まった。互いの研究開発のやり方などを紹介し合うことで、新たな発見があったり刺激をもらったりするそうだ。「環境やエネルギー問題など、今日の社会の課題解決に応える技術や製品を、これからもCRystal Lab.から送り出していきたい」という中島さんの力強い言葉に元気をもらったよ。
伊丹製作所内に開設された伊丹研究本館「CRystal Lab.(クリスタルラボ)」には、ハード・ソフトの両面で先進の考え方が取り入れられていました。働きやすさを追求したオフィス環境もその一つで、畳敷きのベンチでの打ち合せはさぞ気持ち良いだろうなと想像しました。また、屋上に降り注ぐ太陽の光(写真左)を、階下の廊下の照明に活用していた太陽光照明「スカイライトチューブ」(写真右)も、社会課題である脱炭素につながる素敵な工夫が凝らされています。
実験棟には若手研究員の姿も多く見られ、「新しい研究施設の先進の設備で研究に取り組めるのはモチベーションも上がります」と語っていたのが印象的でした。