つぼいひろきの住友グループ探訪
住友電設
川崎テクニカルセンター
2023年4月に竣工した川崎テクニカルセンターは、実機研修室など各種研修施設のほか宿泊設備も備えている住友電設初の教育に特化した施設だ。自家消費型の太陽光発電や蓄電池、EV車充電設備も備え、創エネ、省エネを推進し、環境にも配慮している。
2023年4月に竣工した川崎テクニカルセンターは、実機研修室など各種研修施設のほか宿泊設備も備えている住友電設初の教育に特化した施設だ。自家消費型の太陽光発電や蓄電池、EV車充電設備も備え、創エネ、省エネを推進し、環境にも配慮している。
天井高9mの体育館のような大きな建物の内部に、電信柱やマンホールがある。今回訪れたのは、電気設備、情報通信、プラント空調工事など、総合設備会社として国内外で社会インフラを構築している住友電設の川崎テクニカルセンターだ。2020年に創立70周年を迎え、その記念事業の一つとして竣工した。それまで東西本社などで分散して行われていた人事研修やエンジニア教育の場を集約した。「当社にとって『人』は最も重要な財産です。その人材を育成し、技術力やチーム力の強化を図るための教育施設です」と、案内してくれた人材開発部長の広瀬勝実さんは説明する。
地上4階建てで、低層階は実機研修室や大研修室などの研修エリア、上層階は社員同士がゆっくりと懇親や交流ができる食堂やコミュニティスペース、個室型の宿泊エリアで構成されて、宿泊研修ができる設備が整っている。見学して驚いたのは、電気設備や空調・衛生設備など様々な実機があることだ。例えば安全危険体感室では、高いところでの作業やマンホール内での地下作業の危険を体感でき、ボルトの破断体験やVRによる危険の疑似体験もできる。電気の実機研修室では、普段は鉄板で覆われて見ることができない内部がアクリル板にすることで見える化された受変電設備で構成や操作を学ぶことができる。
「いくらテキストで勉強していても、工事現場に出て初めて機械を見たら戸惑うことがあります。この研修施設では、実際に現場で使われている機械を見て、触れて学べるので、本番で役立ったという声が届いています」(広瀬さん)
様々な設備が見える化されていることも施設の特徴だ。例えば、壁や床のコンクリートの中に隠れてしまう鉄筋と排水管の配置を見える化している。配管を避けるように部分的に斜めに組まれた補強鉄筋を見て、なるほど鉄筋工事が始まる前の段階で、配管の配置を現場に周知していることが実感として分かる。「当社の社員は現場に行けば、経験があるなしにかかわらず現場監督者の立場として各工事担当者に指示を出さなければなりません。配線などの仕組みや手順、危険行為などを実機で体感することで、現場で的確な判断や指示を出すために必要な知識と経験を得ることができます」と広瀬さんは話す。
川崎テクニカルセンターは、新技術の開発拠点としても活用されている。ローカル5Gの実証実験をして高速通信システムを構築したり、見える化した建物の基礎部分で自律走行ロボットを走らせたりして検証している。電波暗室では、外部からの電磁波に影響されずに無線通信機器の性能を確認でき、正確な数値を取得できる。座学で利用される部屋も住友電設らしさが満載だ。デスクのレイアウトに応じて照明の位置を変えられる天井や、アクリル板で反射させてまぶしさを軽減する照明を取り入れている。天井や壁紙の色が違う3つの部屋では、同じ照明を利用して、反射率の違いで明るさが違うことを体感できる。白色、茶色、黒色の3部屋を順に巡り、こんなにも明るさが違って感じるものかと驚いた。
建物は、電気自動車と建物使用エネルギーの連携を行う技術として近年開発が進んでいるV2Xを導入している。屋上に150kWhの太陽光パネルを設置し、発電した電力を昼間は自家消費するほか余剰分を電気自動車に充電、夜は車から建物に供給できる。発電と受電の状況は、館内各所にあるパネルで随時表示している。この日は外気温10°C、朝からの土砂降りで、建物で使用している電気の多くを、ためておいた受電で賄っていることが一目で分かった。このV2Xのおかげで、停電時も電気自動車の電気を非常用電源として活用できる。「電気だけでなく、センターには水や防災用品、保存食を備蓄し、災害時には社員だけでなく近隣の方の臨時避難場所として使っていただける体制を整備してあります」と広瀬さん。地域との共存を目指して川崎市の防災協力事業所として登録済みだ。
竣工から1年が経ち、延べ3202人が利用して、稼働率は9割に達しているというのもうなずける充実ぶり。女性社員チームが大和ハウス工業の女性エンジニアとともに建物計画に参画したという、女性限定エリアの動線の工夫、アトリウムのデザイン、和室のしつらいなどの随所に、訪れた人への細やかな配慮が感じられる。新人研修や階層別研修のほか、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシアの海外拠点で現地採用されたマネージャークラスの人も来日して研修する際に利用されているそうだ。朝は屋上に上がって富士山を眺める人も多いとのこと。
「休憩時間に自然光が差し込むコミュニティスペースでのんびりたわいない話をして、一緒に夕食を取り社員同士の親睦を深めてもらいます。壁にぶつかっていても同じような環境や立場にいる仲間と話すことで心が軽くなるでしょうし、直接顔を合わせて一緒に過ごすことでチームの一体感も醸成される。新人研修で訪れた社員が、半年後に再訪して成長を感じたり、階層別研修で同期同士が『頑張っているか』と声を掛け合っていたりする姿を見ると、この施設ができて本当に良かったなと思います」と広瀬さん。研修施設として充実していることも大事だが、人と人とのつながりを大切にしているのだなと思った。
低層階の設備も見事でしたが、上層階の居心地の良さが印象的でした。女性チームがデザインした和室は、網代編みの天井やアールのラインの床の間など、モダンで風情を感じられるつくりで、くつろいで懇親を深める場として国内外の研修者から大人気だそうです。食堂は人気ドラマのロケにも使われたおしゃれな空間。卓球台やメッカの方向を示した祈祷室も備え、まさに「人」が財産という思いを詰め込んだ場所だと感じました。