たとえば、よく企業の交渉のなかで見られる「顔を立てる」行為は、利害を分析して、長期的な利益、あるいは別の利益を得るための立派な交渉の一手法で、「繰り返しゲーム」という理論で説明できるといいます。一回しか会うことのない相手に対しては、徹底して自分に有利な条件を押し通そうという思いが働きがちですが、政治やビジネスの場では一度かぎりの取引というケースはまずなく、業界内での評判や名誉を重んじて、その次に同じ相手と交渉するときは、前回顔を立てたことを交渉の材料にする、という具合です。
「交渉の達人といわれる人が、直感的に身につけている考え方やスキルを、体系的に教えていこうというのが交渉教育。私が教えている学部の学生でネゴシエーションの講義を取っている学生を、試しに社会人3、4年目の人と交渉させてみると、1学期ではまったく相手にならなかったのが、2学期になると堂々と渡り合えるようになるのです」
と、交渉コンペティションの発起人の一人で、大阪大学大学院国際公共政策研究科の野村美明教授は笑みをこぼします。