大阪市立東洋陶磁美術館

東洋陶磁 浮かび上がる悠久の美

大阪市立東洋陶磁美術館

貴重なコレクションの散逸を防ぐ

江戸時代に各藩の蔵屋敷で、様々な物資が流通した中之島に建つ。
江戸時代に各藩の蔵屋敷で、様々な物資が流通した中之島に建つ。
国宝 飛青磁花生
国宝 飛青磁花生(とびせいじ はないけ)
龍泉窯/元時代・13~14世紀/高さ27.4cm
住友グループ寄贈
元時代の龍泉窯で盛んに作られた様式で、鉄斑を散らし、その上から青磁釉をかけて焼成したもの。日本では「飛青磁」と呼ばれ、特に茶人に好まれた。ほっそりとした頚部と豊かに膨らんだ胴部が好対照をなして、見事な均整美を見せている。

大阪市立東洋陶磁美術館は、その名の通り、東洋の陶磁器を収蔵・展示するとともに、研究拠点としても活動する美術館である。中之島の一画に位置し、高麗・朝鮮時代の朝鮮陶磁、中国陶磁を中心に、約6,000点を収蔵。国宝2点、国の重要文化財13点を含む、貴重なコレクションを形成している。

その収蔵品群の中核をなすのが、総合商社・旧安宅産業が収集した安宅コレクションである。1904年に創業した同社は、戦中・戦後には10大総合商社の一角を担った大企業だったが、1975年、経営危機に陥り、1977年、伊藤忠商事に吸収合併された。

その際、同社が収集した965点に及ぶ東洋陶磁の行方が、大きな関心事となった。後漢から明代にかけての中国陶磁144点、高麗・朝鮮陶磁793点などからなる膨大なコレクションは、高い文化遺産的価値を持つものであり、オークションなどにかけられて散逸することは望ましくないとして、その動向は国会でも議論の対象となった。

ついには文化庁からも管理責任者である住友銀行に対して、安宅コレクションの処分については、分散、あるいは海外流出することがないようにとの異例の要望がなされ、1980年1月、住友グループ21社は寄付金を募り、安宅コレクションの東洋陶磁を一括して大阪市へ寄贈する方針を固めた。大阪市はこれを受けて、コレクションを末永く保存し、広く公開するため、専門の美術館を建設する計画を発表。かくして1982年11月、世界でも数少ない東洋陶磁の専門美術館が誕生し、安宅コレクションは、散逸の危機を免れたのである。

第二次世界大戦後、混乱の余波を受け、日本では古美術品が激しく移動。戦前の名だたるコレクションが散逸し、文化的損失が大きく叫ばれてもいる。その中で、住友グループの寄贈によって、文化遺産が守られたことを賞賛する声は高い。

相次ぐ寄付で収蔵点数が増加

その後、同美術館には寄贈が相次いだ。実業家李秉昌氏による高麗・朝鮮陶磁351点(中国陶磁50点を含む)、入江正信氏による中国陶磁242点、堀尾幹雄氏による濱田庄司作品ほか204点に加え、日本陶磁やペルシア陶器のまとまった寄贈もあり、開館から約30年で、数量的にも評価においても充実した高品質な美術館となった。
また、安宅コレクションには日本陶磁はほとんど含まれていなかったため、東洋陶磁美術館の名にふさわしく、日本陶磁も常設展示すべきとの要望が市民から寄せられ、1993年から購入を開始。1994年には日本陶磁を中心とする収集委員会を設立し、日本陶磁史を俯瞰する長期購入計画を立てて、収集を進めている。さらに、現代を代表する作家の手によるオブジェなども展示し、陶磁器展示・研究の一大拠点としての地位を確固たるものにしている。

古今の日本陶磁も収蔵展示。須恵器に始まり、奈良三彩や古九谷など、絢爛な色絵磁器も楽しめる。
古今の日本陶磁も収蔵展示。須恵器に始まり、奈良三彩や古九谷など、絢爛な色絵磁器も楽しめる。
現代を代表する作家の作品も展示する。
現代を代表する作家の作品も展示する。

本来の質感を鑑賞できる自然採光展示

大阪市立東洋陶磁美術館 自然採光展示室
大阪市立東洋陶磁美術館 自然採光展示室

柔らかな光に包まれる自然採光展示室の展示ケース。天候や時間により変化する色合いも楽しみのひとつ。

東洋陶磁美術館の大きな特色の一つが、自然の光で陶磁器を鑑賞できる「自然採光展示室」だ。天井に光を取り入れるガラス窓を設け、そこから光ダクトを経て、間接的に自然光が展示ケース内に入る仕組み。展示室自体の光量は抑えられ、展示ケースのみがくっきりと浮かび上がっている。開館時は、世界でも初となる画期的なシステムで、大いに注目を集めた。

美術展示において、美術品本来の色合いや質感をどのように鑑賞できるようにするかは、つねに課題とされてきた。とりわけ陶磁器は、光の性質によって色合いや質感が大きく変化するため、自然光での鑑賞を可能にする方法が長く模索されてきた。絵画などの美術品は、紫外線の影響を考慮して自然光を取り入れることはかなわないが、陶磁器ならそれも可能であるため、設計を担当した大阪市と日建設計が知恵を絞り、自然採光システムを作り上げた。

通常、自然採光展示室には、青磁が展示されている。青磁は、陶磁器の中でも、釉薬の色具合が光によって影響を受けやすく、古来より、「秋の晴れた日の午前10時頃、北向きの部屋で障子一枚隔てたほどの日の光」で観るのが良いとも言われてきた。展示ケースは、まさに北向き窓を思わせる柔らかな光に包まれており、一日のうちでも太陽の向きによって時々刻々と色合いを変える青磁の表情を楽しむことができる。

監修者

大阪市立東洋陶磁美術館 館長 出川哲朗
大阪市立東洋陶磁美術館 館長
出川哲朗
大阪大学大学院文学研究科修士課程終了(美学・芸術学専攻)。西宮市大谷記念美術館学芸員を経て、大阪市立東洋陶磁美術館に勤務。2008年より現職。中国陶磁史が専門
大阪市立東洋陶磁美術館 学芸課 重富滋子
大阪市立東洋陶磁美術館 学芸課
重富滋子
跡見大学美学美術史学科卒業。東京の根津美術館学芸員を経て、大阪市立東洋陶磁美術館に勤務。茶道史が専門。2019年退職。

(記事中の人物の所属・肩書は掲載当時のものです)

アクセス

大阪市立東洋陶磁美術館

住所
大阪府大阪市北区 中之島1-1-26
開館時間
9:30~17:00 (最終入館 16:30)
休館日
月曜日 (祝日の場合はその翌日)
URL
http://www.moco.or.jp/

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