多彩な収蔵品の中でも、特に青銅器は質量ともに世界有数のコレクションとして知られる。紀元前17世紀から紀元前3世紀の殷(商)、周時代にさかんに制作された青銅器は、彝器(いき。宗教的儀礼のための祭器)として利用されるとともに、器の所有者の地位や権威を象徴する政治的・社会的意味も持ち、青銅器文明が衰退した漢代以降も、中国の思想を象徴するものとして珍重された。複雑な器形と精緻な文様、器種のバリエーションなどから、世界各地で愛好されていたが、春翠が収集していた20世紀初頭においては、日本で青銅器を集めていたコレクターは、ほとんどいなかった。ちょうどその頃、義和団の乱の余波を受けて、それまで中国の文人らが所有していた質の高い青銅器が流通し日本に伝来した。春翠はそれらを積極的に収集。世界でも類例の少ない作品も揃え、傑出したコレクションを形成した。